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さらば、わが愛―覇王別姫

さらば、わが愛―覇王別姫 (ハヤカワ文庫NV)
さらば、わが愛―覇王別姫 (ハヤカワ文庫NV) 李 碧華

早川書房 1993-12
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泥沼の同性愛の三角関係に、次々に中国を蹂躙しては去っていく偽覇王たち、彼らとその人民に奉仕することが仕事の京劇役者の運命を描きます。カオスな展開が好きな人にオススメです。

清朝末期、女形の男子、蝶衣は、辛い京劇の訓練所の中で、同僚の逞しい男子、小樓を、心から頼りにし、生きがいにし、愛慕しています。

京劇の役者は厳しい訓練を受ける為、みな捨て子です。死ぬほど鍛えられ、死ぬ子供もいるし、そうしないと彼らは生きていけない。師匠も捨て子から成り上がった元役者です。

ある日彼らは、ゴミの山に捨て子を見つけて、師匠に女の子は劇団に要らないと言われて、捨て子の彼らは泣きますが。逆に考えろ、お前らは恵まれているんだと。いつか母親が迎えに来てくれるなんていう考えは捨てろ、俺は3年間でそれがやっとわかった、と師匠はいいます。

 

子供たちの中で、とびぬけて美しい蝶衣は、厳しい訓練の合間に兄貴分の小樓を見つめ、長じて僕たちが京劇の看板になると確信します。

長じて人気役者になった2人、小樓は、ノンケの男で、なりゆきで、楼閣の菊仙を身受けして、結婚することにし、無邪気に喜んでくれ、兄弟、お前にも良い女を紹介するから、と言います。彼を愛慕していた蝶衣は、ショックを受けます。

 

その夜、女形の蝶衣は、党の偉い人に招かれ、凌辱されそうになりますが、壁際に、ある特徴的な伝統の刀を見つけ、それを抜きます。

その刀は2人とも貧しかった子供の頃に、生(男役)になったばかりの小樓が、通りかかった骨董屋で格好良いとほれ込み、僕が大きくなったら、兄さんに買ってあげるよ、と旦(女役)の蝶衣が言った因縁の刀でした。

が、酔っていて体に力が入らず、蝶衣は、その党の爺さんと寝るハメになり、刀は友情の証として送られます。

それを小樓に贈ると、彼は、俺たちの結婚への最高の贈り物だよ、と無邪気に喜びます。

清朝末期からの混乱で、国民党、日本軍から共産党までが、大陸を荒らしまわり、名刀などの文物は盗まれたり、盗み返したりの繰り返しで、どこに眠っているか分かりません。おかげで今でも、故宮博物館は台湾にあります。


共産党との縄張り争いに負けて台湾に逃げ込んだ国民党政府が、各所で盗んで持ち込んだに違いないですが、有耶無耶です。

小樓が結婚して蝶衣を厭い始め、人々が日本軍に追い回されるシーンで、群衆の中で捨てられた子供が蝶衣を見つめます。

僕たちは全て捨てられていた、あの日捨てられた子供たちだった。母が演劇座の前に、10歳の彼を捨てて殺し、今いるのは死人かもしれなかった。

 

普通に結婚した小樓を今でも思慕し、その妻に嫉妬し、本当の自分が男なのか女なのか分からず、気持ちをどこへやっていいか分からない蝶衣は、自分の気持ちと同じように混乱する群衆の中にたたずみます。

京劇は他の伝統劇に似て、男が女を演じ、女性客は彼に男性を見て、男性客は彼に女性を見るが、誰も彼の本当の姿を知らない。

彼らが、永久に演じ続けると思っていた、数々の覇王別姫や恋愛物語のレパートリー。

幼い頃、演劇訓練所の前に捨てられた蝶衣は、京劇の小さなスペースに全てを託していますが、

似たような境遇にあった小樓は簡単に結婚してしまい、京劇がなくなったら日雇いでもやるさ、という呑気さです。

 

やがて共産党が大陸を支配し、役者一座は、京劇で芽が出ずに使い走りをしていた小間使いの小四の裏切りにあい、京劇は全て革命劇に鞍替えします。

そして小四が主役を務め、ヘボ役者の彼より目立つなど、共産革命に反抗的態度を詰られた2人は引っ立てられ、人民の前で互いの欠点を指摘しあえと命令されます。

かねてから邪魔だった妻の菊仙を、策を弄して消そうとする蝶衣と、そうはさせじと妻をかばう小樓の論争は、泥仕合へ発展して大いに聴衆を沸かせます。俺は毒草だ。怪物だ。党を混乱に陥れた。

彼らは、俺たちが抗日をしているときに、瀟洒な格好で踊り、人民を堕落させていたと罵倒されますが、

親に捨てられて劇団でしごかれた彼らの過酷な生い立ちは、無計画に破壊行為を繰り返す青二才の紅衛兵とは比べるべくもなく、彼はまたもやゴミ捨て場に捨てられた赤ん坊を思い出す、彼らがこの大地へ逆襲してきたのではないかと。

そのまま強制労働へ送られた劇団員たちの人生は分岐し、その後の人民の行方は誰も知りません。

 

年老いて香港に流れ着いた小樓、市民たちは、イギリスから中国に返還される香港の自由を試すために、アメリカやカナダのパスポートを取りに並んでいますが、名誉回復されたばかりの彼は、市営住宅の取り壊しにあい、次の住処を探すので精いっぱいです。

年老いた蝶衣がメイキャップをやっている京劇のツアーで2人は出会い、人々が捌けて空いた劇場で、昔を偲び、虞姫の最後を本当に実演してクビを掻き切る蝶衣ですが。

2人の老境を詳しく書いてあったり、死ぬと見せかけて死んでいない辺り、映画より小説のほうがリアルです。

 

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