ちきうアネクドート

仕様でどうしても消せないが、リンク先の婚活業者はココとは無関係です。

エンドレス派遣村

 


嘘歴2007年。

「良太、咳してるじゃん、ヤバイんじゃないの。仕事休んだほうが良いよ」

「俺は戸沢ほどヤワじゃないよ。すぐに治るし」

「お客さんに、何ワシに風邪を伝染そうとしてるんじゃ。あっちへ行かんか、とかいわれないの」

「まあ、言われたら帰ってくるよ」

14歳の良太を雇った会社はグレーゾーンだった。

昔、30万の羽布団や10万円のペットボトルの水を、迂闊なお年寄り連中に売っていた会社が、

そういう高額商品を売るのを止めて(羽振りのよかった高齢世帯も、最近は、そこまで蓄えがなかった)、

子供や女子高生などを、独居する人々の元に派遣し、一時間5000円ほどの金を取るようになった。

大っぴらには出来ないし、すごく小さな会社だ。

子供に最低賃金は適用されないし、労災もない。法的に、存在しないことになっているからだ。

そういう、法の埒外にいる労働者が、搾取されがちなこの世界で、この胡散臭い会社は、良心的だった。

良心と合法は両立しないことがある。


14歳の良太に、28歳の戸沢は、体力でもかなわなかった。

そういうことに、彼女は、生まれつきの格差を感じた。学歴はあまり関係がない。

世の中に、適用しやすい人と、すぐにガタのくる人がいる。

戸沢は頻繁に体調を崩して、派遣会社をクビになり、共同住宅の、食事作りや、掃除などをやっていた。

あとは、自宅でアフィリエイトとか、左翼の宣伝の請負とか、それもいいかげん、クソみたいな収益だった。

 

 

良太は1年前、田舎から出てきた。零細農業では食べていけない。

家族全員で出稼ぎし、たまに連絡を取るが、皮肉なことに、14歳の良太の稼ぎが一番よかった。ただ、こういう商売は永続しない。

子供を孤独な人に派遣するなんていうのは、だから次に備えて、何かしないといけないんだけど、ハッキリしたアテはない。

数年前に、人手不足を解消すれば食っていけると考えた村役場が、

都心から失業者を誘拐して無給で働かせ、村長がクワで叩き殺されたという事件があった。

もちろん、その男は殺人で捕まったが、良太は、一緒に農村に誘拐されていた、男の友人と一緒に東京へ出てきた。


彼らは、食事は共同炊事場で、大きな鍋みたいなもので作って、適当に食べていた。被災地たちの、炊き出しと似た感じだった。

過労死するよりはマシだ。

彼らは気を付けて、8時間ほどしか、働かなかった。ただ、貧しい。

「麻薬、賭け事、パチンコなどはやらないこと。居住資格が無くなります」

と意味不明のポリシーが書いてある。このボロくさい共同アパートも、一応、大家がいる。

大家、地主と店子。資本主義の象徴。

これが共産主義だったらどうなるか。当局の言うとおりに働かない奴は、クラーグ(強制収容所)行きだ。

 

 


デモ隊に、中学生くらいの少女が混じっていた。

左1は左2を捕まえて、問い詰めた。

「デモに子供を出しちゃヤバイだろ。また子供をダシにしてるとか言われるんだ。癪じゃないか」

「ヤバイも何も、彼女は働いているんだよ。

あの子は、両親が破たんして、頼れる人がいない」

「子供が働くこと自体が違法じゃないか」

「だから違法就労すら、悪利用されてるってことなんだよ」

何してるの?ナイトクラブ、時給1000円。足元を見られまくりだ。

お客さんからプレゼントを貰ったり、たまに左翼の仲間に、カンパしてもらって、生活している。一人暮らしをする、年上の女性の元に居候している。

「14歳はともかく、時給1000円はボられてるよ。その店、通報する?」
「いいよ。働くところなくなっちゃうし」
「何歳?」
「14歳」
「義務教育を受ける手続きをしないと」
「学校は、止めたよ。勉強もよくわからないし。今更通ってもしょうがないと思う」

「でも、きちんとしたところで働いて、別にナイトクラブで働いても良いんだけど、それで、まともにお給料貰って、生活したくないか」
「そうだね」

左1は、少女が笑ったので、心に陽光が差したが、すぐに気分は曇った。

まともにお給料を貰うといっても、どうやって就労させるか、分からない。

14歳で雇ってくれるところがあるとは思えない。

彼女は、足元を見る違法ナイトクラブで働くしかないのか。

日本政府は、杓子定規に学校へ通う人しか支援しなかった。ドロップアウトしたり、就労せざるを得ない人のことは度外視していた。

左1は、彼女の働いているナイトクラブへ乗り込んで、賃上げ交渉する、なんてことには、慣れていない。そういうのはきっと、スカウトマンとかヤクザみたいな人の仕事なんだろう。

 

 

 

 

「世界で最初の探偵社は、ピンカートンっていうアメリカの会社だ。

鉄道会社のスパイをやってたんだ。組合活動するやつをつまみ出そうって。組合活動なんかされたら、商売あがったりだからな」

「そうなのか、お前のウンチクは嘘が多いと思うけどな、俺は」

「俺は、どこかで小耳にはさんだことを、いちいち確認しない。グーグルで調べたり、百科事典を引いたり」

「アメリカの鉄道会社は、クーリー(苦力)とか使ってたやつだろ。

労働者はクーリーなんだよ。労働者の権利とか言われるとケツが痒いよ。俺は生まれてこの方、人から権利なんか貰った試しはなかったよ」

赤谷の事務所には、柄の悪い人が多い。こんな仕事は、柄が悪くないとやってられない。

キーボードに勢いをつけて、わざとらしくカタカタと打ち込む音が、部屋に響いている。

応募してきた奴隷の個人情報を役所に登録したり、求人広告を書き換えたり、そんなこと。