ちきうアネクドート

仕様でどうしても消せないが、リンク先の婚活業者はココとは無関係です。

エンドレス派遣村4


「らぶらぶ愛してる!」営業部の紺2は、今月の営業ノルマが達成できるか怪しかった。

ルーチンで、いつものところを回り、休んでいる同僚の分も回った。

「アレ、いつものお姉さんじゃないね。担当変わったのかな?」

「ああ、あいつは、生理休暇なんですよ。それで僕が代わりに来ています」

「フーン、女性社員も面倒くさいね」

「ですよねー」

営業の生き残りは厳しかった。

取引先のオッサンとつるんででも、ライバルは蹴落としたい。

 

 

「地方は日本の要です。日本の農業は、衰退し続けています。

みなさまに食卓に運ばれる、白い米におかず。

これは田舎の農家の人が、丹精を込めて、作ったものであります。

みなさまの、支援と、ご理解を」

人材派遣レッドの面接室には、鼻毛出太郎のパンフレットが貼ってあった。彼は、農業政策審議会などにも参加している。ライバルは、小泉ジュニアだ。

赤谷は、その鼻毛出太郎という政治家と組んでいた。

過疎化した土地を二束三文で買占め、そこへ派遣会社から農奴を入れ、

農協から賄賂を貰い、農業助成金をむしり取ろうという、スキームを考えていた。

農業の生産性なんか、下手に上がってもらわない方が、この手の政治家には儲かった。

赤1はいつものように鼻くそをほじりながら応募者の話を聞いて、派遣先を紹介していた。

「いいじゃん?何で、これいいじゃん。駄目なの?」
「ええと」
「ええと、何よ」
「時給500円っていうのはちょっと、サビ残ありって書いてますし」

応募者は、赤1より頭一つ背が高く、スーツ姿がサマになっている。

しかし、そういうことで、応募者たちを、調子に乗らせては、駄目なのだ。人間、ハッタリが大事だ。

応募者の控えめな抗議に、赤1は、パイプ椅子をきしらせて伸びをした。

「ふんなら、あんた、あそこいきゃあいいよ。紺谷のところだよ。

養鶏場ビジネスって俺らは呼んでるけどね。

何がラブラブ愛してる、だ。お前に愛されたら人生上がったりだ。この妖怪ババアが」

 

 

 

過労死や自殺は、よほどの大手企業の人でないと、あまり注目されない。

それからインターネット上に名文を残すことも、人々の目に留まる条件だった。

いつも人々は自殺していた。

中央線は毎日止まり、轢死体を処理する鉄道員が、トイレでゲロを吐き、彼らを悼む人は少ない。


赤2は、赤谷の子飼いの、恰幅の良い女性だった。

赤谷に気に入られるには、とにかく彼とその会社を、褒めるに限った。

それから、どれだけ、派遣労働者からの、文句を出さないかだ。それが実績に結び付く。

赤2は、決して人に威圧感は与えないが、人の心を抉るのは得意だ。


「あなたは、使えないよね。勤務評定も良くないし。

私も、こういうことは言いたくないけど。

あなたには、嫁旱りの、農家の嫁にでも行くくらいしか、使い道がないのよ」

応募者は、世の中に絶望したという書き込みを残して、自殺した。

絶望の内容は、勝手様々に解釈された。

都会は怖いとか、派遣制度が諸悪の根源で、終身雇用制に戻すべきだとか。

説明不足のまま死ぬべきではない。

自分が何故、死ぬに至ったかくらいは徹底解明してから死ね。