ちきうアネクドート

仕様でどうしても消せないが、リンク先の婚活業者はココとは無関係です。

エンドレス派遣村5


紺谷と赤谷のビジネスを支える株価には、年金資金が大量に流入していた。

老人の間には、投資信託などが流行していた。

かねてから、俺俺詐欺の恐怖が警察によって喧伝されていた。

巷の老人たちにとって、そんな俺俺詐欺に引っかかるより、プロに持っていてもらったほうが良い。小銭も入るし。


紺谷と、赤谷は、元々、経営者としてはサッパリというか、ただの叩き上げ人夫だと、業界では言われている。

紺谷は宗教団体の幹部を兼任しているという噂もあった。

彼らには、人件費削減しか利益の上げようがなかったし、

日本で生産性とか効率とかいうのは禁句だった。

それは社会の上層部に巣食う封建主義から、教育現場の共産主義に至る、鉄壁の防御を崩すことにつながるからだ。

 

 


左2は事務所の中で、あまり左翼かぶれしていない年配のスタッフだった。

組合活動を、ただ労働者の人権を守るためのツールとして利用し、

政界進出、したがって票田の拡大や、組織の拡充などは狙わない。

そうすると、立法、つまり、労働法などへのアプローチを伴わないので、無効かもしれないが、

政界進出をデフォルトにしていた既存の左翼は、だいたい腐敗して人々に嫌われたから、とりあえず二の轍は踏まない。


霞が関の役人を、つるし上げるんですよ。

結局、日本のことを決めてるのは彼らです。

給料だってここの若者や子供たちが、100人くらいが暮らせるだけ、1人で貰っている」

しかしこれはヒドイ。左1は思った、そんなことをしても無駄だと。

しかし、とりあえず、やってみようということになった。

先行き不透明な毎日、気晴らしが必要だった。

「上級国民は、毎日、料亭で贅沢をしていまーす」

「上級国民のみなさんは、ぼろきれを野球ボールにして、楽しく原っぱで遊んでいます。

俺たちはぼろきれです」

こんなのが、相手にされるとは、彼らも思っていなかった。

やってみれば、何かの突破口になるかもしれない。しかし、何の?

 

何を血迷ったのか、厚生労働省のビルから、1人の男性が出てきた。

左1たちは、それは予測していなかった。

パトカーや護送車が止まり、警官が10人くらい出てきて、こん棒を振り回したり、催涙弾を撒くと思っていた。

急用があって、コンビニでも行くのかな?売店くらい、省内にあるだろ。

デモ隊は、ざわついた。

奴は、リストラされたんじゃないのか。余命1年の胃ガンだとか。

 

血迷った男は、てくてくと歩いて、デモ隊の前に来て、「何か話したいことがあるなら、伺います」と言った。

左1が、男性の前に立った。

「お兄さんたち、給料、多過ぎますよね。

僕たちは、自給、800円貰えるかもらえないかです。

共同で炊き出しをやって糊口をしのいでいるくらいです。

料亭の食事は美味しいですか。

少しくらい下々のことを考えてくれてもいいのではないですか」

左1は、デモ隊の全員に聞こえるように、スピーカーを手にしてしゃべった。話終わると、それを相手の男性に渡した。

男性は眉を顰めたが、受け取って話し始めた。少ししゃがれているが、低くてよく通る声だ。

「僕は、ここにたどり着くまで、ずっと努力してきたんですよ。霞が関では、22時前には帰れない。

あなたたちの中には、生れてこの方、チンタラ遊んで暮らして、文句を言っている人だって混じっているはです。

僕はそういうのは納得できない」

「あなたと同じくらい、ずっと努力してきた人はいますよ。

僕は遊んで暮らした覚えなんかないです。あなたと頭の出来は違うかもしれないけど、

もしあなたの頭が良いんだったら、こうならない為の方策は知っているはずだし、有効な手段が取れるはずです」

「俺たちは究極的には、日本の労働環境が、なぜこうなったのかが、分かりません。それは認めます。

でも僕は戦ってきたし、人一倍努力してきました。

ここにいるのが、不公正なことだとは思いません」

「俺もそうですよ。俺も人一倍努力してきた。それでも、こんなことになってしまった。

人によって、出る結果は違うんですね」