ちきうアネクドート

仕様でどうしても消せないが、リンク先の婚活業者はココとは無関係です。

エンドレス派遣村6


赤谷は、紺谷のオフィスに、初めてよばれた。

紺谷の城は、意外と地味だ。赤谷も人のことを言えなかった。

彼らが六本木ヒルズなどに入居した日には、六本木交差点辺りで、通り魔に刺殺されてしまうかもしれない。

グーグルマップを拡大して執拗に調べても、それって、どこ?くらいの、分かりにくい所在地がいい。

アコギな商売をする者は、目立ってはいけない。

紺谷は、2人いるという噂だった。

姉と妹。

相手はどんなババアかと思いながら、赤谷がインターフォンで来訪を告げると、警備員が出てきて、一通りボディチェックをした。

ドアが内側から空くと、赤谷は意外な光景を見た。

紺谷は、3人いた。

「そりゃあ、そうですよね。俺たち、こんな商売してたら、体がいくつあっても足りない」

2人の紺谷が、奥の部屋へと消えていき、広い応接間には、1人の紺谷が残された。

紺谷は、テーブルの向こうの、ソファに腰を下ろしていた。ババアだが、スタイルは良い。

あんたがピンク?っていう感じの人が、よく着用する、パステルカラーのスーツ。そんなに珍しい感じの容貌の人ではなかった。

そういう女性は国会中継などで良く映っているし、赤谷の事務所にも訪れた。

赤谷は、勧められないのに、向かいの椅子へドカっと腰を下ろした。

「紺谷さん、商売キツイんでしょう。
ラブラブ愛してる!ってやつ、ププ、すみません。でも、紺谷さん、変なネーミングつけましたよね。俺みたいなオッサンには、きついです、ソレ」

「私の案じゃないですから。広報の頭の悪そうな茶髪が考えたのよ。

私にはああいうのは、わからないわ」

彼女にとって、結婚は、ラブラブも愛してるもなかった。

彼女の出身家庭は極貧だった。結婚相手を選んでいる余裕はなく、暴力男の元へ嫁ぎ、死にもの狂いで働いて、嫁ぎ先から逃げてきた。

そんなことを暴かれたら、婚活ビジネスの担い手としてはお終いだし、そもそも、彼女は男の元から逃げた時に、名前を変えて、戸籍のバツを消す手続きをした。

「そのラブなんとかで、成婚したカップル、片っ端から離婚しているっていう噂じゃないですか。

まあ、それを俺に教えてくれた鼻毛は、口が悪い上に、嘘松野郎だから、本当かどうかしらないけど。

人間は鶏じゃないですからね。金の卵を産むってわけにはいかない。

まあ、俺が言うなって話ですけど」

「鶏に失礼なくらいよ。あのチンチクリン連中が。

私は、スタッフに、完全に羽をむしれって言ったのよ。

最近の人間は、文句が多過ぎるのよ。

あれだけ叩いても、いけしゃあしゃあと、自分に市場価値があると思ってる。

私がどれだけ叩かれたと思ってるの」


「それ、俺らも迷惑してるんですよ。ただ、そういう、ビジネスモデルは、成立するんですよ。

俺が考えていた、農村ビジネスについては、こういうことが考えられる、俺たちが奴らを拉致する、奴らが逃げる、拉致する、

俺らは補助金を貰い、奴らはメシ代を稼ぐ」

「そう、それでお終いかしら。それで人間生きていて楽しいのかしら」

「そういうの、壮大なブーメランを食うから、やめたほうが良いですよ。

紺谷さん、スタッフに憎まれたりとか、してないですか。

防諜とか大丈夫ですか。こういうテーブルの下とかに、盗聴器がついてたりして、っていう」

赤谷は身をかがめて、テーブルの下を探る仕草をした。

コレはメディアに出ない方の紺谷じゃないのか。俺はさっきからペラペラしゃべっているが、彼女は口数が少ない。

赤谷が落ち着かないのには、理由があった。

以前、農業政策審議会での、論争のシーンが、メディアに取り上げられ、

赤谷と組んでいる政治家、鼻毛出太郎の、いかにもゲスいオヤジっていう顔が、

プリンス小泉と並んで新聞の一面に出ていたからだ。

つまらない議論でしくじり、あんな表情を撮られるなんて、プロらしくない。こっちまでイメージダウンだ。

小泉だって、違うタイプの奴隷商人に違いない。いや、知らないけど。

この困窮化する日本で、彼だけが、魔法の杖を持っているわけじゃない。

地盤看板の揃った、顔と口だけ野郎が、何を仕出かすかは、赤谷には分からない。

大衆を狙い撃ちにする口撃法も、フィクサーとしての能力も、腕力としては、同じ効力を持つ。

「まあ俺はもう、一通り金を貯めたし、人生面白い事もないから、商売畳んで、グアム辺りで寝てても良いんですけどね。他の奴らが、煩いし。オヤビン、オヤビン、なんちって」

紺谷は、出会い頭にいきなり図星をつかれて、機嫌を損ねていた。

インターネットやメディアは、紺谷の悪口で埋まっていた。彼女は、手加減が分からなかった。

おまけに、彼女の隠れ蓑、もう1人のパブリック・エネミー、赤谷の、トンヅラ宣言に失望した。

「あなたは、日本人じゃないっていう話ですよ。

あなたのビジネスを支えている人たちも。

私、そういうの、嫌いなのよ。

私、そこに座って良いって、言ったかしら。赤谷さん、あなた、図々しいわ」

「俺が座ると決めたら、俺は座るんだよ。ここへ座れ、あそこへ座れ、俺はそんなこと、他人に指図されない。

あんまりゲスいビジネスをやり過ぎて、クローンをつくって怯えてる、お嬢様に、そんなことは、言われたくないね。

あんたは、全く、お嬢様なんかじゃ、無いと思うけど。

多分、お前の戸籍謄本と、俺の戸籍謄本を、見せ合ったら、どっちこっちだぜ」

「赤谷さん。あなたって、噂通りの、本当にヤクザなのね。

戸籍謄本が何とか、かんとか、まるでバブル期に土地ころがしをやってゴロを撒いていた、ガラの悪い連中そのままよ。

日本に住む資格は、戸籍謄本とか、そういうもののことではないの。

大正天皇だって暗殺されたのよ。日本人としての精神が大事なのよ」

「脱法宣言か。それに、アンタの言う日本の精神っていうのは、羽をむしられた鶏ってことかね。それとも、他人の羽をむしるってことかね」

紺谷は黙り込んで、お茶を啜っていた。

赤谷にお茶は出なかった。

赤谷は、もう話すことが無くなり、手持無沙汰になって、黙って席を立つと、紺谷のオフィスを後にした。

何故呼ばれたのかわからないし、向こうも、何故呼んでしまったのか、後悔しているかもしれない。