ちきうアネクドート

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神聖モテモテ帝国6


東欧は相変わらず白い鳩を飛ばしていたが、このままでは侵略に合うは時間の問題だった。

鳩も最近元気がない。無理やり捕まえてきたり、繁殖させたりしていたから、変な感じになってきた。

飛び立つときもヨロヨロしているし、国境付近で墜落したり、不吉だった。

イスラエルとか行かないですか。ユダヤ人のフリをして。

ユダヤ人っていうのは、顔では識別してないような気がします。名前と、ユダヤ教の中身を知っているかどうか」

ダーヴィトには、鳩の顔が識別できなかった。どんな鳩だろうと、鳩は鳩だ。飛ばせば、飛ぶ。鳩であれば、顔なんでどうでもいい。例え目が潰れて居ようと、鳩は鳩だ。

「え、ユダヤ教に改宗するの?それって相当難しくない?あの教義、わけわからないですよ。関連書籍を100冊以上読んでも、まだ分からないって言う噂ですよ」

「逆は腐るほど行われていたよ。ユダヤ人が迫害を受けてキリスト教に改宗するパタン。

あんたの祖先も、私の祖先も、わからんよ。そういうことは、すぐに忘れてしまうから」

「賽銭を投げた、神社の中に祀られている神体が、仏像だろうが、マリア像だろうが、いちいち気にする人は少ないよ。

そういうことを気にするのは、聖典をいじくったり、人々に読み聞かせて食っている、抹香臭い売人だけだ」

「だけど、抹香臭い売人がいないと、ありがたみがないですよ。やっぱり、威厳って言うのは大事です。

極貧に喘ぎ、ボロを着ている人々にとって、何かえもいわれず神聖で、天国から降りてきたみたいで、とても手が届かないっていう感じが、欠かせない」

ダーヴィットは、地元の教会の、比類のない美しさを思い浮かべた。それも何派だったかは、もう覚えていなかった。

貧民から税を搾り取って建てられる、極悪施設。豪奢すぎて周囲から浮く。ステンドグラスから入る色とりどりの光、高い天井に響く聖歌隊の声。

しかし貧民は総じてカモだった。その荘厳さに心を打たれ、天国へ召される為に、明日も生きて行こうという気になった。

「クリスチャンは、難しいことを覚えなくても、キリストのパンの欠片とか食べて、十字架を拝めば、受け入れてくれるじゃないですか。

ユダヤ教は、選民宗教です。ハードルは高い」

宗教は、人々を守らなかった。豪奢な教会は、砦にはならないし、牧師連中は戦力にならなかった。

たまに敵兵が襲来すると、私を殺しなさい、そして帰りなさい、と自己犠牲精神を見せる人があるが、そういう奴はだいたい、無言で撃たれた後、村民が皆殺しにあったり、無駄死にした。

「今世界中で、戦闘の起きていない安全地帯はどこですか」

「世界大戦っていうくらいだから、無いんじゃないの。

アフリカとか行っても、ライオンのエサにされそうだし」

「だからアメリカだよ。南北アメリカ大陸」

「どこにせよ、新参者が押しかけて安住の地を得るのは、相当難しいですよ。

ナチスソ連みたいな、大軍を持っていれば、別だけど」

「そういう迫害者を肯定するような言い方をやめろ。大軍は諸悪の根源だ」

「アメリカは、ポーランド人とか、かなり行ってますよ。だから根性とパスポートの問題なんだよ」

「だから、そのパスポートをどこで取るのよ。大使館をドサ周りして、ナチスに迫害されたって全員で大泣きするか」

「昔のアメリカは、ボロ船で押しかければ、誰でも受け入れてくれたのにね。世間もシビアになってきたよ」

腹が減っていた。平和への願いで飛ばしていた白い鳩を、東西の帝国は、もっと送るように要求するようになった。食用、スパイ。物資は不足していた。

国連合の大激突、資材は、いくらあっても足りない。

 

 

 

 

 


スターリンヒットラー、プリンス・チャーチル、要人のソックリさん。

リクルーターは大戦の混乱を利用して、世界を飛び回って人材を集め、相変わらず見世物にしていた。

興業先は、あんまりガチで戦争へ没入しているところは止めよう。神聖モテモテ帝国とか、自由主義世界を守るとか、赤旗を世界にはためかせるとか。

もう諦め気分とか、シラケムードが覆っているところが、俺たちの客だ。悲しき弱小地域、そういうの。

グラディエーターはマジモンの流血が人気の秘訣で、切先で皮膚の表面をつつき合っている程度では客は来ない。

彼らはプロレスラーや殺陣の訓練を受けていないから、マジモンに見せかけたヤラセは不可能だ。

それにヤラセなんて今時、流行らない。今この瞬間に、世界で何人死んでいると思っているんだ。

そういう客に限って、前線に行って、首を取ったり取られたりして来る根性はなかった。それに、前線に行く理由がない。彼は、神聖モテモテ帝国も、赤旗も、興味無いし。

ソックリさんたちは、VIPルームの横のブルペンのベンチで、自分と同じ顔で、命のやり取りをする男たちを見ていた。

こいつが死んだら、次は自分。前線に送られる兵士の心境は、どこも同じか、どうか。人の死に慣れる。人の死に慣れない。

自分が次に死ぬ事実に慣れる。自分が次に死ぬ事実に慣れない。いずれにしても、逃げる選択肢が無いのが、この時代だった。

もう少し前だったら、もう少し後だったら、兵役忌避とか逃亡の選択肢があった。

「お前、勝ちたいか」

「決まってるだろ。このボンクラ、気でも狂ったか」

「だけど勝っても、癒えない傷とかが残ることがあるよ。雨が降れば傷痕が痛む。風が吹いても傷痕が痛む。

仕事ができず、軍服を着て、傷痍兵であることをアピり、駅前で乞食をする。

スッキリ死んでも良くないか。こんな腐った世の中なんだし」

「死ぬ前からそんなことを言う奴は変人だ。知り合いに傷痍兵でもいるのか。それとも、不戦勝がしたいのか。俺にヤラセで負けろと」

「そういうことじゃないよ。人生哲学を戦わせたいんだよ。

あんたは、こんなブルペンのベンチで、自分と同じ顔の人が見世物として殺されているのを見て、平常心でいられるか」

「平常心もクソも、ここで俺が取り乱して、雄たけびを上げながらグラウンドへ乱入しても、どうせそれもショーの一環だよ。

平常心だろうが、狂気だろうが、ココでは等しく消費される。人間性の極限の一環として」

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