ちきうアネクドート

仕様でどうしても消せないが、リンク先の婚活業者はココとは無関係です。

bananaman 1


嘘歴2010年。

「俺、コレ行こうかな。金ないし」

彼らは見たところ、今時のヨーロッパのカップルだ。ただ、貧乏だった。

彼氏がパラパラとタウンワークを眺めている。マリケは言った。

「それは、あんた、止めたほうがいいよ」

「何で。お前の働いてるカフェより、800ペソも高い。お前も一緒に来ればいい」

「コレは、悪評高い、中国人の工場よ」

「日給1800ペソ」

嘘臭い文句が躍る求人雑誌で、ひときわ異彩を放つ求人コーナーがあった。

「キツイかもしれませんが、儲かります」とそっけなく書いてあるだけだった。

そこそこ、マッタリの、ゆるい労働環境が支配する、デーネルランドの、小規模都市にあって、この求人は異例だ。

 


シェンは、経営改善に取り組み、従業員の雇用を確保し、時間があれば、工場を見て回る、昔ながらの良心的な経営者だった。

ただ、昔と違うのは、工員の誰も、彼に敬意を示さないことだった。

いつものように工場を見て回り、ラインで作業をしている工員に声を掛けた。

「ご苦労様です。何か困ったことはありますか」

「うーん、あるといえばあるし、ないといえばない」

工員は、長い手足を丸めて、モゾモゾした。シェンは彼が何か言うのを待った。

「経営者は白人のほうが良いと思うんだよね、俺は」

シェンは返答に困った。

「君は、ネオナチか何かなんですか」

「お前らチンクは、すぐにそういうことをいうね」

「全然大丈夫です。働いてくれればネオナチでもスーフリでも何でも構わないですよ」

シェンは、工場全体に向かって声を張り上げた。

「少し大変かもしれませんが、頑張ってください。

当社は、それだけの報酬をお支払いします。

お金を貯めて、人生を楽しく過ごしてください」


工場の流れ作業は、キツイのが定番だが、従業員の就業環境に非常に煩い欧州、アジア基準でいえば、まともな工場らしい工場はほどんと存在していなかった。

そこへ、インダストリー4.0の導入などもあり、単純作業を次々に機械が代替し、多少の競争力が戻ってきた。という噂。

自給100ペソでも喜んで働くみたいな貧しい人が、次々に涌いてきて、就業環境が悪いのが当たり前だと、労働者の上に胡坐をかいている新興国には、できない経営努力だ。

 


シェンは、ほとんどが欧州出身者で構成される、ホニャララグループに生え抜きで採用された、中国人のCEOの1人だ。

欧州における、彼らの企業買収や工場地の選定は、定石破りだと言われた。

その基準は周囲の人にはよくわからなかった。

立地、周辺人口、交通の便、

今はそういうデータが素人にも手に入るから、そうした選択は、誰でも難しくないはずだった。

資金を出してくれる人がいて、経営学を、かじったことのある人なら。

ことにシェンのCEO加入後は、ホニャララグループの経営実態には霞がかかったようになった。

彼らの工場は、地域に膨大な雇用と税収をもたらすから、

地元の工場のマネジメントを兼任するCEOのシェンは、何らかの有利な条件をコテにし、政治家と癒着している噂もあった。

その政治家が誰とか言うのが、庶民の眼に明らかではなかった。

それで尚更、ナゾの中国人、シェンへの風当たりが強くなった。

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