ちきうアネクドート

仕様でどうしても消せないが、リンク先の婚活業者はココとは無関係です。

bananaman 3

 

メルケルの天下は、また続くと思いますか」
「彼女は難民受け入れで下手を踏んだのではないですか」

周りはほとんど白人だらけだった。ホテルの1フロアで催される、立食パーティー。

シェンは、別のCEOに、ここへ来るように言われていた。だから来た。

彼は華やかなパーティーに慣れていないし、壁の花になっていた。

会場に、酔いが回った人が増えてきた。

壁際を、白人の集団が通りかかり、1人がシェンに気を留めた。

彼は、シェンの髪の毛が気になった。

「そのバーコード、どうやってやるのか、教えてくれ。俺もやってみたい」

「毛の色が薄いと、あんまり効果ないと思いますが」

もう1人の黒髪のラテン系が、シェンの横に流れているバーコートを払って、耳のところへ垂らした。

「初めはこうなってるんだな。で、それがこうなる」

ラテン系は、垂れている黒髪を、また持ち上げて、横に流した。

「キュートじゃない。あなたもやりなさいよ」

綺麗な栗毛の女性が、ラテン系の黒髪をいじって、横わけにした。クダラネーナ、という、忍び笑いが起こった。

全員、見たところ、40歳を超えていた。シェンは50代だ。

一行は、髪の毛談義に飽きて、行ってしまった。

彼は慣れないところへ1人で置かれるのが、苦手なタチではなかった。ただ、彼が話せるのは、ビジネスのことばかりだ。もちろん、西洋流の教養も、無いことは無い。

ビジネスのことを大っぴらに話すパーティーも多いが、これは違うらしい。何を思ってCEOは自分を呼んだのか。

 

 


シェンの妻の朝の日課は、家の前のゴミの片づけから始まった。

ネズミ、ヘビ、たばこの吸い殻、デーネルランドの地方都市は自然が豊かだ。

こういうのはだいたい、ネオナチの悪戯だった。

警備会社に防犯カメラの分析を依頼したこともあったが、彼らはフードをかぶっているし個人は特定しにくい。

ゴミが捨てられる家の前の道路は公道だから、周辺住人も嫌な顔をした。

アッパー・ミドルクラスをメインにした、この辺の住人は、当初はネオナチに目をつけられた彼らを憂慮してくれていたが、最近は巻き添えを恐れて、彼ら一家を、迷惑がるようになっていた。

警察は庶民のものだし、あまり資産家の家ばかりを、重点的に警備することはできない。それも、中国人の。

 

 

 


ルーラントは、このところ研究室に泊まりっきりだった。しばらく自分のアパートにも帰っていないし、実家にも帰っていなかった。

「お前、出てるよ」

売店に飲料水を調達しに行った同僚が戻ってきて、ニヤニヤしながら雑誌を渡してきた。

プラチナ・ハイソサエティ

ルーラントはページをめくって、憤慨した。

「自動運転車の未来を担う、若手のホープ、シェン氏のDNAは不滅か」

確かに彼は一か月ほど前、自分の研究について、取材を受けた。まだ博士課程にいる身としては、異例だ。それだけでも、恐縮していた。

他に、インタビュー記事にふさわしい研究室のメンバーは大勢いた、


父親のことは、書かない約束だったではないか。憤懣やるかたない。

結局こういうスキャンダリズムが目的か。

自分の研究が、父親のビジネスと絡むと、父親の会社から、研究資金を不正に横流ししているとか、

彼が中国に研究成果を流しているとか、変な噂ばかり立てられた。

ルーラントは、純粋に研究者として、このコペンハーゲンの研究所で頭角を現してきた。

 

欧州の研究施設は、新興国の資金力や研究者の賃金などで、苦しい局面に立たされることがあった。

ルーラントは、欧州で育ち、見た目以外は、欧米人と同じだ。

ルーラントは父が、どういう仕事をしているかを、良く知らない。

自分は研究で忙しく、父は仕事で忙しい。

シェンが、地元の政治との癒着を、全然していないということは、ないんだろう。

高校生の頃、市長室のスタッフ・コーナーに貼ってある写真の人が、家の応接間でブランデーを飲んでいるのを見たことがあった。

それは汚職の証拠とは限らないし、ただの個人的な親交かもしれない。


ルーラントは、研究棟のトイレに入ると、プラチナ・ハイソサエティの編集部に、抗議の電話を入れた。

「でも、あなたちの研究室は、広告塔を必要としているでしょう。

文科省は、成果の上がらない研究の、予算をカットしている。

科学の収穫逓減の進むこの時代、研究で目に見える成果を上げるのは至難の業です。

あなたのところも、無傷じゃすまないはずです」


「予算の心配なんて、あなたにしてもらわなくても結構です。

ゴシップ記事で注目される必要なんかありません。

それに、だったら、教授に言ったいいじゃないですか。あんたのところは予算がヤバイって。

僕はヒラの研究員で、おまけにまだ博士課程のヒヨッコです。当然、同僚も変な目で見てました。

こんなことを書かれたら、逆に僕はここに居づらくなりますよ」


「あなたたちの国では、面白いように、お金が儲かってウハウハかもしれないけど、

私たちは、経済の冬の時代を通り抜けて来たんです。

私たちは、市民の権利や、最低限度の生活水準を守り通した。

末端の労働者を搾取し、黙っていても金が集まってくる中国とは違うんです。

ココでは、そういう資金集めの仕方も、アリってことですよ」

ルーラントは相手の詭弁についていけなくなって、通話を切った。

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