ちきうアネクドート

仕様でどうしても消せないが、リンク先の婚活業者はココとは無関係です。

bananaman 6

 

貸ホールの前に、生産性向上委員会という紙が張ってあった。

そのタイトルは、いかにも適当に付けた感じが満載で、

メンバーのやる気が無いのか、やる気があり過ぎて、真相を隠すためにつけた偽装テーマなのかは不明だった。

シェンは呼ばれていない。

「先進国は空洞化して久しい。賃金格差で、新興地域にはとてもかないません」

「私たちの工場では、通信衛星やインフラを効率化し、

発注から配送への速さで競っています。消費者が商品を、好きなようにカスタマイズできる時代です。こうしたことは、海外の遠隔地の工場にはできません」

「そういうのアレ、垂直統合は儲からないんじゃ、ないっけ?

他企業のパーツを適当に組み合わせて、コストカットするのが流行ってるんじゃないですか?」

「逆に再統合なんじゃないですか?

グーグルみたいな巨大企業が、次々にロボットメーカーとか買収してるし、2000年以降、企業は次々に合併した」

「あの何でもありの中国の、走行試験の実証データを貰えるっていうのは本当なんですか」

「奴らがタダでモノをくれると思うか?」
「例えば何を求めてくるんですか」

「知らないうちに政治に食い込まれるとか。

アラブ、アラブ言ってるうちに、中国人だって、無視できないよ。彼らはバカみたいに働くから、地元の中小企業なんかを駆逐してるし」

昔、市役所のスタッフとしてシェンの家でブランデーを飲んでいた、今の市長は、こういうところに潜り込んで、支持基盤の強化に余念がない。

重役連中に、産業界に理解の無いバカだと思われてはいけない。

産業界の助けを借りないで、地域の財政再建は難しい。いかに彼らに、タックス・ヘイブンなどに逃げられず、地元へ密着してもらうか。

「ひとつ、市民にデモを起こしてもらって、シェンの手札を減らすのはどうですか。

中国人は元々、反感を買っている、あまりに安い賃金で、あまりに働きすぎるから、欧州の労働環境を破壊しているとして」

「シェンは、ただの雇われCEOでしょう。中国の中小企業なんかと関係ない」

「関係ないわけがないでしょう。シェンだって、物腰は洗練されてるけど、中国人ですよ。つるまない中国人なんて、あまり見たことが無いですよ」

「私たちは、彼の口利きがあるから、中国に工場を置いたりできる。

もちろん口利きをする人物は、シェンである必要はないけどね。中国の政府関係者なんて、石を投げれば当たるくらいいるんだから。

私たちは、そんなことをする為にシェンを雇ったんじゃない」

「市民の反感を押える為に、中国の実証データを提供して、欧州でモノを売りたかったら、地域社会に貢献する姿勢を見せろと言いますか」

「欧州はまだ、石畳みの道なんかが多いです。まだ、っていうより意図的に残してますから、

観光客は、ああいうのを喜ぶし、住人のアメニティにもなるし。

それを、やたらにコンクリで固めて実験台にしたり、ハイテク網で結んだりは、しにくい。

もちろん石畳の通りでも、出来る限りの利便性は導入してきました。電気自動車の充電はできるし、都市計画がしっかりしているから、渋滞も少ない。

でも私たちは、アメリカを反面講師にして、スローライフを掲げてきました。市民の生活を大切にしてきました。

そこに、あのアメリカの劣化バージョンの中国人たちが押し寄せてくる。

欧州は、ああいうインベイダーに食いつぶされるわけにはいかない。私たちの敵は、イスラム過激派だけではない」

 

 

 

 

「何かすごい記事でてるよ。お前の父さんは、欧州を跋扈する、奴隷商人だって」

休み時間に男子生徒が、スマホでインターネットに載っている経済記事を見せてきた。エレンとは、たまに話をする程度の男子生徒。

「冗談じゃない。パパの工場の時給は、1800ペソよ。普通は、1000ペソくらい。仕事は少しキツイのかもしれないけど、あんな待遇の良い工場はないよ。奴隷商人が腰を抜かすよ」

「知らないよ、そんなこと。
俺ら、高校生じゃん。ココは坊ちゃん学校でバイトも禁止だから。
平均時給とか、よくわからない。
でもなんか、ヤバイよってこと。
俺らがエレンのこと、嫌ってるってことじゃないよ。だから見せたんだよ」

この学校は、要人の子弟も多いから、欧州を跋扈する奴隷商人くらいの記事で、いちいち騒ぎになったりしない。

不倫とか児童虐待とか、もっと痛い身内のスキャンダルを書かれた生徒も、過去にはいた。

エレンは、そのサイトのアドレスをルーラントに送った。

「父さんは、クビになるのかな?僕の大学院の学費は、父さんが出してる。僕は忙しくて、アルバイトとかする時間がないし」

「そうなの?」

「ほとんどの研究室は、研究費を、国からも、企業からも、生徒からも貰って、何とかしのいでる状態だよ。

学費の払えない博士なんかお払い箱だよ。

自動運転はライバルが多いし、俺らの研究は、袋小路かもしれない」

「お父さんは、蓄財とか、してるの?

健康ランドとか何とか、気前よく立ててるじゃない。それに寄付もしてて、うちにそういう感謝状がたさんあるし。

お父さんがこういうのでクビになったら、私たちは、中国に送り返されるの?だけど、中国ってどういうところ?」

「僕らがこっちに来たのは、小学校の頃だよ。俺たちは、こっちの就労ビザを取った父さんの、家族用のビザしか持っていないと思う。あとは、就学ビザとか」

エレンは両親に聞かれないように、通りへ出てスマホルーラントと話した。

アジア人のエレンを、たまにチラチラ見ていく人がいる。

デーネルランドのアッパー・ミドルクラスの住む、中国人の少ない地域だ。

 

広告を非表示にする