ちきうアネクドート

仕様でどうしても消せないが、リンク先の婚活業者はココとは無関係です。

bananaman 7

 

今日もシェンは工場を見回り、ニコニコしていた。

仕事の帰り、ニコはアレックスにスマホの一画面を見せた。

「俺らのインタビュー見た?コレだよ。ベンツの上に鳩の遺骸を載せて街を走ってるとか、鳩を焼いて食う野蛮人とか、俺たちの答えと、違うこと書いてあるよ」

「社長可哀想。でも、あの取材、報酬良かったし。俺たちは、報酬高い仕事に弱い」

「うちの会社を潰したい奴がいるんじゃないの。社長は、政治家と癒着してるとか噂多いじゃん。それが、誰かがハッキリ分からないから不気味だよ」

「別にいいよ。うちの会社が潰れても、欧州が倒産するわけじゃない。

時給1800ペソの仕事がなくなるのは、痛いけど。

どうしてもっていうなら、アメリカとかに出稼ぎして派遣でもすればいいんじゃないの」

「欧州って倒産しかかってないか?欧州の財政は難し過ぎて、素人には分からないけど、EU全体もあれば、国ごとの財政もあるし、国債は持ち合いしてるし、サブプライムローンなんかも食ってた」

「アメリカに出稼ぎとか、無理だろ。競争相手はメキとかだよ。貧しいところから出てきて、バカみたいな安値で、バカみたいに働く。アメリカは激戦区だよ。

俺ら、白人の高等遊民は、失業したら行き場はないよ」

「俺らは高卒だから、高等じゃないよ。失業率も高止まりしているし。でも、白人ならではの特質を生かした何か、ないの」

公共事業みたいなの、探すしかないんじゃない。

EUの高級官僚はきっと、EUを一度解体して、しばらくバラしておいて、それも詰まってきたら、今度はまたUEとかいう違う共同体を作るんだよ。遷都景気っていうか。

それか保育所とか介護みたいな、サービス系に行く?でも、俺ら性格こんなんで、サービス業とかできるのか?」

「客がビビって逃げるよ。ニコはそんなに怖い顔じゃないし、ハーケン・クロイツの入れ墨もないけど、挙動不審だし」

時給1800ペソ、1日10時間。
レックスもニコも、いつか何かをするつもりでいた。
何か。それって何だろう。俺たちは一体、何者なのか。

シェンの工場は、ただのフリーターに、そういう夢を持たせてくれる、数少ない場所だった。

欧州のブルーカラーは大した夢を持たない。安定した公共部門、キツくない仕事、悪くない生活は保障されているかもしれないが、天井が頭の上に丸見えだった。澄み渡る青空は見えない。

そういう、どこのブルーカラーやフリーターに見られる頭打ち感を打ち破る、珍しい企業だった。

嘘歴2011年。

 

 

取締役会の机には、スキャンダル雑誌が数冊置いてあった。唐突に始まったシェンへのバッシングに会社は渋い顔をしていた。

いつまでも会社の評判と株価を落とすCEOを飼っておくわけにはいかない。

シェンは困惑した。人種差別には慣れていた。

いつも仕事で結果を出すことで、跳ね返してきた。パーティーでバーコード頭をイジられることくらいは気にならないでいた。

「私たちは、あなたの敵じゃない。

コレくらいで解雇しようとか、浅はかな差別主義者ではありません。

あなたは当社に欠かせないCEOの1人で、従業員に好かれてきた、そう証言する人は大勢います」

整った顔立ちのCEOが、シェンに微笑んだ。

彼らが欲しがっている、実証データの件は、ある中国の国営企業の幹部に持ちこまれて、シェンが自分から言いだしたから、今更引き下がるわけにはいかない。

シェンは相手にしてくれる中国の党幹部連中を思い浮かべた。シェンは仕事一筋で、そっちの方の付き合いはサッパリ疎い。

欧州の大手企業グループのCEOの地位を引っさげて、乗り込むしかない。

中国の大きなプロジェクトは、巨大な国家投資銀行で賄い、砲弾は無尽蔵、安く良質な労働力をエサにして、海外との合弁にも積極的だった。

 

 

 


「人、死に過ぎじゃないですか」

「中国で、いつでも人は死んで来ましたよ。文化大革命天安門事件、無理な地上げ、農民工の搾取」

「無茶を言うのは止めて下さい。

スタートアップのブラック企業に犠牲はつきものだが、中国は、もうそういうフェーズではない。GDP2位の大国なんです」


自動運転の実施で、100件ほどの事故が起きた。人をはねたり、家屋に突っ込んだり。

中国の奥地では、よほどの事故でないと、大した騒ぎにはならない。

経済成長期に稼いで中流市民に成りあがった人たちの、ベットタウン。

市民たちは、ココが実験都市に選ばれたことを誇りにしていたから、あまりクレームが出ない。

実験が成功すれば、ここは先端都市になり、ますます稼げるようになる。まるで紅二代や、党太子のように、勝ち組への道が約束されるかもしれない。

中国で、勝ち組へのキップを手に入れる人は少ない。13億人の、大半は搾取され、貧しい。100人死ぬくらい、何でもない。

「何人も死ぬような車を、他で走らせるわけにはいかない。

私たちは、現物を輸入したり、研究者を留学させたり、技術者を引き抜いたり、必死にキャッチアップしてきたけど、

欧米の技術は欲しいですよ。

このままでは、1万人の犠牲者が出ても、人の死なない自動走行は可能にならないかもしれない」

「欧州を巻き込めば、中国人だけが人殺しっていう誹謗中傷は免れます。

利益は半分になるけど、何も得られないよりマシじゃないですか。既に合弁企業は多くありますし」

「やっぱりアメリカには敵わないですか。うちは、ITとか戦闘機とか、ほとんどがアメリカやロシアのパクリだし」

「アメリカは、実証実験とかどうしてるんですか。ハリウッドみたいに壮大な都市のセットを作るんですか。本物の人間の動きは真似できないでしょう」

「既に人間ソックリのロボットとか。それか、不法移民を実験台にしてたり。

あのネバダ砂漠の真ん中に軍事基地があって、変な実験してるとかいう噂は本当ですか」

「あまり失策が多いと、私たちのクビが飛ぶよ」

 

 

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