ちきうアネクドート

仕様でどうしても消せないが、リンク先の婚活業者はココとは無関係です。

Кури́льские острова́5

 

通りがかりの金髪の女性の腕が山川の首に絡みつき、

彼が振り向くと、彼女は、同伴のマフィアみたいな男に促されて、店の奥へ消えて行った。

ここに来る、煌びやかな女たちは、彼の気を引かなかった。

その美貌を持ちながら、マフィアの女、その趣味は山川には理解できない。

スリットから見える美しい長い手足が、無駄に感じられる。

しかしそういう山川は、その彼女たちが、振り返る美貌の持ち主だ。

あら、アジア人でこんな綺麗な子、珍しいわね。

そうするとマフィアは、ハーンという顔で山川を見た。

「ナターシャがお前のこと、気にいったみたいだ。

俺が遊んでいるあいだ、ナターシャは、退屈してる。部屋に行ってやってくれ。鍵、渡すから」

「僕は、ただの従業員です」
「ナターシャに興味ないか?」

山川は困惑した。断っても角が立つ、かといって、関わりにあったら、翌日、北極海に氷と一緒に流れていそうだ。

「もしそういうサービスをお望みなら、プリティ・シスターズってところに行けばありますよ。そうしたら、こいつなんか、チンチクリンに見えます」

通りかかったエーリンが、フォローを入れた。

マフィアの連れている女性の大きな青い目が、また獲物を狙う豹の目に変わった。

こっちは金髪のイケメンだ。

エーリンは、オムスク州から出稼ぎにきて、採用された。多分、顔で。

寂れた鉱山で働いていた彼だが、接客のルールをすぐに覚えることが出来た。

ここは見た目に迫力があるスタッフと、接客が上手いスタッフに分かれているが、

マネージャーはとりあえず、客の評判などを聞いて、適当に調整していた。

待遇がいいから、競争率は高かった。

 

 

 


ニーナは貰ったメダルを換金しながら、メダルをくれた親子の後ろ姿を追った。

神様は、いじわるで、気まぐれで、ときどき、脇が甘い。

辺りを見渡した限りでは、ここの従業員もやはり、動きが素早く、気が利きそうな人が多い。

逆に動きのモッサリしている人は、ハっとするほど目を引く容貌の持ち主だった。

中毒者のセラピーをしているってところに行ってみようかしら。

でも、ロシア正教も、あんまり好きじゃないのよね。文句が多いけど。

だって、子供のころの地区主教が、変態だったから。大人しそうなニーナは狙われていた。

ニーナは子供の頃から、男運が悪い。とくにオッサン運だ。

ニーナは、昨日まで、カジノに来る客を収容する、トランプホテルの従業員をしていた。

 

トランプホテルは、南クリル諸島北方領土の、ヘンテコな建物が居並ぶ中では、とても正統派のホテルだった。

そこの、最高経営責任者のトランプは、働きの良くない従業員を切ることに躊躇がなかった。

彼は、温情とか、チームワークとか、そういう寝言とは無縁だった。

彼にもし、温かみのあるところがあるとすれば、クビにする相手に、直接クビを言い渡すところだった。

ニーナは部屋の真ん中に立ち尽くしていた。

「お前がこの仕事を続けたかったら」

彼は黒檀の机の周りをうろつきまわっていた。ひとところに座っていられないタイプだった。

「俺と寝るくらいしか、チャンスがないな」

彼は思いついたことを何でも言った。

ニーナは俯いている。せっかく英語も覚えたのに、何がいけなかったのか。彼女は子供の頃から、何でもできるタイプってわけじゃなかった。

家も貧しく、出稼ぎが必要だった。

「泣きそうか?」

トランプはニーナの手を取って、給料袋を押し付けた。

「まあ、がんばれ。人生は長い。悪い事ばかりってわけじゃない」

ニーナも、社長の笑顔が魅力的なことは、認めざるを得ない。

彼は、子供みたいな無邪気な仕草で、残酷なことをした。

ニーナは今日のカジノで、その給料の4分の1くらいをスってしまったが、貰ったメダルを換金したら、負け分を補填しておつりが来た。

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