ちきうアネクドート

仕様でどうしても消せないが、リンク先の婚活業者はココとは無関係です。

Lehman Brothers Holdings Inc.4

 

スタンフォードの不良学生が、マズイ債権を食いまくり」
「思い上がった投資銀行の大チョンボ、尻拭いは税金でウマウマです」
「驚きの年収10億のお仕事の中身」

こういうイエロージャーナリズムの見出しの脇には、必ずマクスウェルの写真がデカデカと載っていた。

鳴物入りで、担ぎ上げられた神輿。

誰もやりたくないから、悪賢いエスタブリッシュの役員たちは、この爆発物を黒人の彼に回した。

リーマンフラフープは、ごく最近まで、大いにブイブイいっていた投資銀行の最大手で、

不良債権の規模でも他の追随を許さない、つまり、大きすぎてつぶせない、そういうところだ。

だから、クラシュしたからといって、サッサと解散、解散、というわけにはいかない。

グダグダのまま、政府と協議を続けていかなけばいけない。誰もが気が向かない、尻拭い。

 

 

 

 

群衆から飛ぶ罵声。地面においた膝や素手に伝わってくる、真冬の冷たさ。

マクスウェルは、日本人のように、膝をつき、地面に頭をつけて土下座をした。コンクリートと埃の臭い。

この状況は、土下座しようが、しまいが、変わらないだろう。

デモをして怒り狂う群衆は、この投資銀行をどうのこうのする権限を持たない。

リーマンフラフープの救済に公的資金を投入するかどうかは、国民投票で決まらないし。

ただ社会の風当りや、投資マインドが、間接的に彼らの事業利益に影響を与え得る、というくらいか。

 

 


「今年の年俸が10円。

あんた、ナメてるんじゃないですか。

取締役会で通るわけがない。

ココは残念ながらソ連や中国じゃないんです。ガボンとかブルンジとかでもないです。

マクスウェルさんの祖国がどこか存じ上げませんが。コートジボワールとかボツワナですか。

でも、ここアメリカで、そういう頭のおかしい独善は通用しません」

「そのくらいしないと、風当りが強いですよ。

世間の不評を買って、リーマンフラフープが潰れてしまったら、元も子もないでしょう。

1年くらい、10円だったからって何ですか。これまで何年も、億単位で貰っていたじゃないですか」

 

 

 

 

「今年は、重役陣の年俸を10円にします」という発言は、世界を駆け巡った。

マクスウェルが、取締役会にかける前に、メディアに晒したのだ。

CEOは、いくらお飾りでも、ロボットではないし、遠隔操作はできない。

それから、アメリカは北朝鮮ではないので、メディアの生放送も廃止できない。


「逆風が鎮まるのを待つんだ。

マクスウェルは腹立たしいが、一理ある。逆風が収まるまでは、頭を低くするのが賢い。

たった1年くらい10円でいい。そんなことに腹を立てるな。

また10億貰える環境を作るんだよ。

私たちは何も間違ったことはしていない。

ずっと全力で先陣を切ってきた。

例えば学問の世界で、誰かが失敗したからって、晒し者にするか。

年俸を10円にして、道端で野晒しにするか」

「野晒しにするんじゃないですか。研究の世界は、厳しいし」

「晒し者にはしないだろう。クビにはなるかもしれないが。

失敗を恐れたら何もできないのは、みんな分かってるはずだ。

誰も予測できなかった失敗なら、次に生かせばいい。

共産主義者のオクトパスから、金融自体の否定まで出る始末だ。

ココは資本主義国家、アメリカだよ。この事態は、異常だ」

「だから僕たちが年俸10円とかにするしかないですよ。

金融のメソッドの善悪が、いつのまにか、格差社会の話にすり替わってる。

僕たちが10億とか貰っていたせいです」

「俺たちが10億、貰わなかったら、誰が貰う?その辺で飲んだくれた乞食か?」

「何かに寄付でもしたら、イメージ違ったんじゃないですか。

テレビの番組枠買って、宣伝したらいいですよ。僕たちが、社会に利益を還元していると。

1クールくらい借りきって、金融マンのドラマ作ってもらったり。

だいたいヒュッセルさん、何につかってますか。10億と」

「そういうことを聞く間柄なのかね。私たちは。

同じ空間を共有し、同じルールで動く。それでいいじゃないか」

「何かヤバイことに使ってるんですか」

「いやに絡むね、キミは。子供の教育費とかクルーザーとかだよ。ごく普通だよ」

「私なんか、うちの金融商品につぎ込んでましたよ。

ストックオプションというか、自社株持ちみたいなもんです。

それで、自分でイカれてしまいました。かなり腹立たしいです。大学生の次男は、奨学金を貰うハメになってますよ」

マクスウェル抜きの取締役会は、非公式でコッソリ行われた。

金融再生を考えるシンポジウムなどの紙を貼って、中堅社員の会議をカモフラージュした。

あまり大っぴらにやると、マクスウェル叩きの構図がバレバレになり、社員の士気が落ちるしイメージも良くない。

広告を非表示にする