ちきうアネクドート

仕様でどうしても消せないが、リンク先の婚活業者はココとは無関係です。

イケメン・ツァーリ2

 


このルシーア・マフィアの闇娼館は汚い建物だが、扱う金は少なくなかった。

赤毛は、ここで大した仕事をしていないボンクラの1人だ。髪が赤毛だから赤毛、他にこれといった特徴がない。

自動小銃を持って歩哨に立ったり、雑用をこなしていた。マフィアの下っ端にありがちなように、少し頭が弱かった。

赤毛は、見たことの無い量の札束をボスが扱うのを見ていて、思わず軽口が出た。

「儲かっちゃって、儲かっちゃって、笑いが止まりませんね」

赤毛はボスの発砲した玉で死んだ。ボスがバカが嫌いなことは、ここの半分くらいの人しかしらない。

かといって、自動小銃を持った歩哨がウロつく、マフィアの巣窟で軽口をたたくバカもそんなに多くない。そうして希少人種の赤毛は死んだ。

ボスは銃口を拭いて、アゴで優しい牛に死体を片づけるように指示すると、黙って札をアタッシュケースに詰める作業へ戻った。

優しい牛は体が大きくてボディーガートに向き、上に従順で、下にも憎まれない、優秀な人材だった。口が堅く、よけいなことは言わない。どこででも働けそうな奴だ。どうしてこんなところにいるか、不明だ。

不法移民なのか。こんなクソ溜めで、そんなことを聞くのはヤボだから、誰も誰のことを知らない。誰も同僚の素状を知らない。互いに誰が不法移民で誰がそうでないかなんて、知らない。

ボスのアタッシュケースの納入先だって、ここのメンバーのほとんど誰も知らなかった。世の中、知った方が良いことと、知らない方が良いことがあった。しっかりその区別がつくのが、ここの分別だ。

彼らは「ルシアの鷹の爪」を名乗り、麻薬取引や売春の、ほとんどの売り上げを下っ端のメンバーから巻き上げた。

 


「儲かっちゃって、儲かっちゃって、笑いが止まりませんね」

スマホの音声再生機能を止めて、優しい牛は、苦笑いをした。コレ、使えないですね。

ヒラリーも苦笑いをした。彼女はこのNPOの事務所の代表で、もうけっこうな年だ。

貧しいスキルの無い市民たちの教育、就労支援や、

トフラフィッキングの被害にあう女性たちへの募金を呼びかけ、救済に動いてきた。

ソ連が断末魔の叫びをあげ、アメリカでルシーア・マフィアが産声を上げた頃から、ずっと活動をしてきた。

彼女たちの敵はルシーア・マフィアに限らないが、ルシア人のグループは、白人女性を扱うマフィアの中では最大手だった。

他には、ンチェチェ、ルイウクナなどのグループがあり、互いに縄張り争いをしている。

「こんなの、証拠にならないですよ。この男は、死んだんだし」

「殺人でしょっ引いてもらうとか」

「チンピラが死んだくらいで、警察は動かないよ」

赤毛の死は、アメリカの裏路地では、ほとんど意味がなかった。ただの不法移民が、他の不法移民に殺されただけの話だ。

アメリカの刑法で扱うような事象ではない。

「決定的な瞬間に立ち入るのは難しいです。ボスは無口ですから」

優しい牛は「ルシーアの鷹の爪」のボスの秘書をしていた。いわゆるスパイ。

優しい牛のデスクを囲っていたNPOのスタッフが、失望して、また持ち場へ戻っていく。

 

 

 

「あんたみたいな婆が、どれだけ騒ごうが、うちの嫁は良い女だ」

農夫の野太い声が収録されている。「ルシーアの鷹の爪」の黒鼠が言った、クソ田舎の大きなフカフカのベットってやつの正体だった。

また他の日、カーチャがヒラリーNPO事務所のスタッフの前で、スマホの再生機能を押した。

その村落の人の、多くの声が録音されていた。100キロ先のクソ田舎の農夫の住処たる村落で、カーチャが先日、聞き込みをした結果だ。

彼女はルシアマフィアの元を、運よく生きて脱走できたルシア人女性の1人だった。他の娼婦たちとは違う。

彼女の目の前には、蜘蛛の糸が垂れてきた。他の娼婦の前には垂れなかった。それだけの違い。

彼女はヒラリーのNPOに保護されたとき、娼婦の格好のままだったから、変な豹柄のミニスカートをはいて、キツ過ぎる口紅をつけていた。

今日のカーチャは、ナチュラルメイクで、青いセーターに黒のパンツを合わせていた。

ヒラリーは彼女をここのスタッフとして雇うことを民生委員に掛け合い、アメリカのビザの発行を認めさせた。

それ以来、彼女はもう不法移民ではない。

英語をすぐに覚え、ここのスタッフの仕事が板についている。元々、頭の良い子だったんだろう。

優しい牛とカーチャは、ルシア語が出来るから、ルシアマフィアのトラフィッキングを追跡しているモララーNPOには欠かせないスタッフだった。

トラフィッキング、行き場の無い、貧しい地域の人などを、誘拐同然の方法で連れてきて、二束三文で働かせる雇用主などに、売り払うこと。

 

 

 

この取材用にカーチャは、膝丈のスカートに、トレーナー姿でカモフラージュをした。

何となく共和党大会の写真を見て、真似てきた。が、微妙にズレているような気がした。

村落の他のルシーア人女性たちは、縞模様のワンピースや、コリー犬のイラストの入ったセーターなどを着ていた。やっぱり違う。

「あなたもルシーアから来たの?」

小さな野球場にしつらえた観客席の女性たちは、胡散臭そうな目でカーチャを見た、仕方がない。この辺で見かけない顔、でもナチュアルなルシーア語を話す、部外者だ。

「どこから来たの?何しに来たの?この街は面白い?」

カーチャはルシア妻たちの質問攻めにあった。足元の芝生の臭い、小麦畑のかすかな鼻孔をつく香り。

ここのルシーア妻たちは、自分たちの故郷が戦乱のあと、どうなったのか知らない。自分以外の幼馴染たちが、どこへ行ったのか、知らない。

「私は、田舎のボンクラ農夫が、休日に草野球をする姿を見るが、好きなのよ。こんなクソ田舎まで見に来ようと思うくらいには」

「そう、変な趣味ね」

「あなたの旦那は、どれなの」

「遊撃手よ。彼はボンクラじゃないわよ。野球は下手だけど」

「パパたちは、お腹が出てるから、動けないんだよ。俺たちの方が、上手いよ。俺たち、グラウンドが空かないから、困ってるよ」

子供がサーシャと名乗った女性の後ろから顔を出した。胸元についている番号は6。

ルシーア人女性たちの側で、ユニフォームを来た子供たちが、退屈そうにつつきあったり、帽子をいじくったりしていた。それぞれの胸に別の番号がついていた。

「ヘタクソなくせに、出たがりなのね」

「試合が長引いてるのよ。子供たちと、お昼にグラウンドを交代の予定だったのに、点の取り合いになって、ムキになっちゃって」

「パパたちはヘタクソだからエラーが多くて、点数ばかりがかさむんだよ。ピッチャーの玉もヘボイし。僕たちは、もっとスマートな試合をするよ」

カーチャは、彼女たちに、いくつか質問した。

スカートのポケットに入ったスマホの録音機能をオンにしながら。

ここの生活は楽しいの。旦那は良い奴かしら。