ちきうアネクドート

仕様でどうしても消せないが、リンク先の婚活業者はココとは無関係です。

イケメン・ツァーリ3

 

「救済キャラバンを、やめる?」

「そう、あんな田舎くんだりまで行っても、何か無駄な気がしてきたの」

カーチャの録音を聞いてから、ヒラリーは考えを改めた。

「ヒラリーさんらしくないじゃないですか」

「トラフィッキングの摘発は、マフィアの人身売買に絞ったほうが良いと思うの。

彼女たちは、嫁ぎ先で、上手くやってるのよ。旦那は典型的なレッド・ネックだわ。

共和党支持者の、田舎の農夫。

コンベアーで大きな農場を耕し、妻がたまに、収穫や雑用を手伝う。

彼女たちは、それに馴染んでいる。

何も他人の票田を、荒らすことも無いし」

レイチェルは、学生のインターンだった。大学での専攻は、女性学、いかにもって感じだが、頭の回転は速い。


「納得いかないですよ。

女性は、そういう状況に置かれたら過剰適応してまうものなんですよ。知ってるでしょう。

ドメスティック・バイオレンスの被害者は、暴力を振るわれると分かっていても、自分から夫の元へ戻るんです。

ボンクラ男連中は、だから女なんか、一発殴って、黙らせてやれ、と最後には言いだします。それが既成事実になる。悔しいです」

この事務所のボス、ヒラリーはため息をついた。

「気になるなら、レイが、一件一件訪ねて歩いたらいいわ。

私には、そんな時間がないし。

それで、もし被害者を連れてきたら、私たちが、何とかするから」

ここのスタッフは全員、マフィアに搾取されている女性たちを助けたかった。そういう志の元に結集していた。

でも、せっかく嫁ぎ先で上手くやっている妻たちの幸せを壊すのは、やるべきことじゃない。

 

 

ヒラリーがNPOの事務所を構える中央街では、共和党民主党の票は、拮抗していた。

ヒラリーは支持政党である民主党の応援演説に立つことが頻繁にあったし、逆に共和党の集会で、マフィアの取り締まりの強化や、不法移民の水際での阻止を訴えることもあった。

今日は、後者だ。

共和党からルシア系の候補者が出て、ルシア系の住人が集まっていた。黒人やワスプの白人も混ざっていた。

ヒラリーは、彼らの政策意図に沿ってスピーチをしたつもりが、彼女が元々、民主党の支持者なのは広く知られていて、聴衆の不評を買った。

民主党の犬。俺たちを、支配しようとしても無駄だ。俺たちの縄張りを荒らすのを止めろ」

「これは共和党とか、民主党とか、そういうことではないのよ。

私たちは、アメリカを荒らすチンピラやマフィアの摘発の強化で、手を取り合うことができます」

「そんなことない。ここは保守の牙城だ。でていけ、ババア」

「フーン、保守の牙城が、アメリカに不法移民を受け入れて、ルシアのマフィアと取引しているのね」

見たところ、スラブ系の女性が、男と一緒に、後列からツカツカと壇上へ近づいてきて、叫んだ。

「私は不法移民じゃないわ。アメリカ国籍を持ってるわ。ソーシャル・セキュリティ・ナンバー、見せて上げようか?」
「あなたは、本当にこの人が好きなの」
ヒラリーが、女性の隣の小太りの男性を見た。USAと書いてある野球帽に、変な模様のTシャツ。
「何か文句あるの」
スラブ系の女性は、たどたどしい英語で叫んだ。今は立派なルシーア系アメリカ人だ。
「あなたの旦那は、感じの良い男なのね」
「そうよ。女をお金で買うことくらい、誰でもやってるわ。アメリカでも、ルシーアでも。それが、まるで犯罪者みたいなことをいわないで。侮辱よ」
「そう、良い男なのね。うちの旦那みたいに、お調子者じゃなくて羨ましいわ」

聴衆から笑いが起こった。

ヒラリーの夫は、市議をしていた。彼はよく、地元のゴシップ誌を賑わす。

見てくれが良く、女の噂は多いが、ただ、どれも出来心にすぎず、昔からヒラリーに懐いていて、彼が妻を一番愛していることは、衆目の一致するところだった。

彼自身、ヒラリーに、俺を見捨てないでくれ、などと公衆の面前で訴えることすらあった。