ちきうアネクドート

仕様でどうしても消せないが、リンク先の婚活業者はココとは無関係です。

イケメン・ツァーリ4

 


異国の地でも、台所は彼女たちの城になった。農夫の旦那は入ってこない。

ホットケーキを作り過ぎてしまったの、遊びに来て頂戴。

サーシャは、ターニャの家のリビングでホットケーキを御馳走になり、ターニャのいじっているパソコンを覗きこんだ。

彼女たちは、子供の草野球チームの、ホームページの更新をしていた。ルシア語と英語。

英語の書き言葉は、彼女たちにはまだ難しいから、旦那と子供が作っていた。

ルシア語のページは、アメリカ向けではなく、ルシア向けだった。互いのページは、相互にリンクしていなかった。

それは何となくヤバイから。とは言え、何がヤバイのかよくわからなかった。

私たちはこのクソ田舎で縁があって結婚して、旦那と子供が、草野球をやっている。だから?

世の中、素人が知らない方が良いことは多くある。

「ターニャ、そのアイコン、クリックしてるの?」

「してないの?」

デスクトップに、ルシアのイケメン・ツアーリのアイコンが浮かび上がっていた。

「タチの悪いウイルスに感染しそうじゃない」

「クリックしないほうが、逆に危ないんじゃないの?

私たちが、どうやって、ここにたどり着いたか、忘れたわけじゃないでしょ」

「私とサーシャは、同じところにいたわけじゃない」

彼女たちは、平然と昔のことを話せるほど、ここの生活に馴染んでいた。

あの汚いタコ部屋には、ロクな想い出がないのに、もう想い出は色あせていた。

自動小銃を持った男に見張られながら小用を足すこと、毎日違う男に身を任せながら、一銭の報酬ももらえず、一切、外出もできなかったこと。

「ターニャのところのボスは、連絡をブッチしても大丈夫だったの」

「うちのボスは、良い人だった。

ライウクナ付近で引っ捕まった男より、良かった。

あそこの男たちは、私たちを裸に向いたり、人に言えないことをした。

あそこの男とかいっても、本当は何人だったのか、サッパリ分からないけど。

当時のライウクナは、戦乱で、まともに暮らせる状況じゃなかったから。

アメリカで引き渡された先のボスは、そういうことはしなかった。

ただ、やってることは、同じだと思うけど。ルシアの女たちを売って、そのお金を全部、自分の懐に入れるの」

「良いボスと、良くないボスがいる。まあ、そういう考え方もあるわね。確かにそうかもしれない。

彼らは、私たちを裸に向いて、寒空に転がしたり、野蛮な飲んだくれたちの、エジキにしたりするわけじゃない。

私は今の旦那が好きよ。これまでの男の中で、一番好きよ」

「そう。でも、私は良く思うの。マイクと、うちの旦那に、どういう違いがあるのかって」

「私は、旦那は良い奴だと思うんだけど。

私はこんなに大きな温かい家に住んだことなんかない。ジェイは悪い男なの?」

サーシャは、そう聞かれると、自分でもよくわからないことを口にするのが躊躇われた。それで、話を元のところへ戻した。

「ツアーリのアイコンは、どこにつながってると思う?

ボスが、まだ私たちのことを監視していると思う?」


「私が聞きたいくらいよ。ツアーリのアイコンについて、サーシャは何か知ってるの?」

サーシャは肩をすくめた。

「私はパソコンをいじらないから、分からない。

いつも旦那がクリックしてるのかしら。それをクリックすると、どうなるの?」

サーシャはパソコン画面に浮き上がる、イケメン・ツアーリのアイコンを見た。

「何も起こらないよ。ルシアの聖母たちへ、とかいうメッセージが出るだけよ」

 


「お前は、随分長い間、連絡を怠っていたようだな。

ルシアの聖母。アメリカの農夫をかっぱぐのは快適か?」

サーシャは、好奇心でイケメンツアーリのアイコンをクリックしたことを、早くも後悔した。

「人聞きの悪い事言わないで頂戴。コレは何なの。

ツアーリのアイコンなんか使って、何かの詐欺に決まってる。

ルシア人は、アメリカで、悪い事を沢山するし」

「あんたの、そのメッセージが、本当にイケメン・ツアーリに届いたら、どうする」

「意味が分からないことを言わないで。

このウィンドウは、どうやって消せばいいのよ。早く消えなさいよ。

コレは旦那のパソコンなんだから、おかしなことをしないで欲しいの」

「待てよ、そんな敵対的になるなよ。

お前はルシアの為に全てをささげている。俺はお前を祝福している。俺とお前は深い絆でつながった同志だ」

「ツアーリのアイコンで、そのセリフを言うの、キモイからやめろ。

どうせあんたは、頭のおかしい飲んだくれプログラマか何かなんでしょ。

ルシア人の写真を盗んできて、詐欺サイトを作ってる。

それに、私はイケメン・ツアーリとかどうでもいいのよ。私は今の夫が好きなのよ。無駄な口出しをしないでくれる」

メッセージボックスは、静かに消えた。

 

広告を非表示にする