ちきうアネクドート

仕様でどうしても消せないが、リンク先の婚活業者はココとは無関係です。

イケメン・ツァーリ7

 


「ヒラリーさん。世の中、あんたみたいな、自由意志の塊みたいな、エリートさんばかりじゃないんだよ。

アメリカは自由の国だ。どこよりも人々が自由になれる国だ。こんな良いところはないよ。

でも、それが建前なことは、よほどの豆腐頭でない限り、誰でも知ってる。

世の中に、誰かに売られたことの無い奴なんているか。

俺は毎日、自分に値札がついているのを感じるよ。少しでもヘマをしたら、そのうち降格だ。沢山ヘマをしたら、クビになって路頭に迷う。

俺たちは、なかなか思い通りにならないけど、それでも少しでも幸せになろうとしてるよ」

チェスターは、市長の右腕と言われていた。警視正から異例の政治家秘書へ転進を果たし、ハードな共和党支持者だ。

政治活動で、大量の借金が嵩んだという噂があった。つねに金絡みの噂が付きまとい、公式の場にいない時の言葉遣いは汚い。

「それは極論でしょう。

でも私たちは、収まる処に収まった、田舎の奥さん連中を、今更どうのこうのしようとは言ってないでしょう。

トラフィッキングは重大な犯罪です。

貧しい女性たちが、体を売ることを強要され、売れなくなってきたら、女っ気のない田舎へ売り飛ばされる。

それを許すのがアメリカですか」

トラフィキングを放置したら、やったもの勝ちだ。横行しすぎて、そのうち誰も文句を言えなくなる。奴隷制度の復活だ。

チェスターは、「ヒラリーは、黒人やインディアンを煽って、謀反を起こさせようとしている売国奴」という、右翼のゴシップ雑誌をヒラヒラさせた。

お前の理屈は世間に通じない。こと右翼ってのは、こういう奴らなんだよ。アメリカで虐げられているやつは腐るほどいる。いちいち特例扱いをするな。お前が何を言っても、無駄だ。

「私たちは、昔のことを蒸し返して騒ぎたいわけじゃありません。今、ここで起きている犯罪を食い止めたいんです」

 

 

 

 

カーチャは、ヒラリーに「イケメン・ツアーリ」というスクリーンショットを見せた。

大統領のアイコンに、どこかのコンピューター・オタクが捏造した、不気味なメッセージ。

サーシャが、ネタで送ってきたものだ。コレ、不気味でしょ。

カーチャは、例のクソ田舎の聞き取り取材で、親しくなったルシーア妻のサーシャと、インスタント・メッセージの交換をしていた。

これはスクリーン・ショットだから、踏んで経路を調べることはできない。

ヒラリーは首をかしげた。

「コレは、どこのパソコンにも仕組んであるの?ルシーア・カフェとか」

「分かりません。彼女の家のパソコンにはあるみたいです」

ルシーアが発生元とみられるフィッシング詐欺などの噂は多い。

ルシーア人の写真を使った、偽の婚活マッチング・サイトも大量にあるそうだ。

本当に生身の女性を売り飛ばしているより、ニセサイトのほうがタチが悪くないと、hラリーは思っていたが、

真剣に結婚相手を探している人からすると、そいつらは許しがたいということになる。

彼らにとって、生身の女性を売ってくれるマフィアは、逆に救世主だ。倒錯していた。だからマチズモとフェミニズムは永久に相入れないのかも知れない。

しょうもない旦那を持つヒラリーは、その手の男に全く同情しないタイプじゃなかったから、逆に脇が甘いと、人に言われた。

彼女たちの一部は、全ての持てる力を発揮して、他人を押しのけることにあまり躊躇しない。企業社会でのし上がったり、イイ男を見つけたり。

ヒラリー、あんた変な奴よ。

そんなことしていたら生きて行けないのよ。

 

 

 

マリーシャは、ソファで野球を見ているビリーの隣へ座った。持ってきたミルクコーヒーのカップを2つ、テーブルへ置いた。

「最近、ルシーアの家族と連絡を取れるようになったの。

相変わらず、暮らし向きは、あまりよくならないって。私は心配しているの」

「そうか。ルシーアも大変だな。共産主義っていうのは本当にクソだ」

「私はママや妹たちを、クソな地域にとどめておきたくないの。

もし迷惑でなかったら、ここへママたちを呼んでも良い?」

ビリーはマリーシャの顔をまじまじと見た。彼女たちにも家族がいるだろう。俺たちと同じように。俺はあまり想像したことがなかったけど。

「もし仕事を手伝ってくれるなら、いいよ。

そういえば、最近、若い奴が出稼ぎに出て、村の農場が空いてるんだ、人が増えたら、農地を拡大できる」