ちきうアネクドート

仕様でどうしても消せないが、リンク先の婚活業者はココとは無関係です。

金2

 

「俺のスマホには、戸川のメールとか入ってるし、写メも持ってるし」

「ドアの前に座り込んだくらいで私が折れると思うの」

目の前には誰の眼にもそれと分かるイケメン、ただし無職。

座り込んでいた坂巻が立ち上がって戸川に近づいてきたので、彼女は少し後退した。

「戸川さんは、あいかわらず、きついんであります」
「ありますじゃないでしょ」
「何も居座るとは言って無いじゃん、俺は就職活動しているところだし」

「アパート借りるお金くらいあるでしょ」

「戸川は俺に将来性が無いと思う?」

「そういう上目使いとか、しても無駄だから。そういう人、たくさんいるのよ。

会社の広報は確かに、あなたみたいな人を置くことが多いよ。

相手が女性社員だと、そういう人を出して来たり、そういう研修でもしてるの」

「でも、もうクビになったし」

坂巻は、スネた顔をした。どんな顔をしてもサマになる男、モデルのバイトでもすれば良いのに。

「本当のこと言っていいよ」

「私は知らないし。坂巻の可能性とか」

「じゃあ見せて上げよう」

スネ顔の坂巻は、パッと輝いた表情になった。

「帰れよ」

戸川の声に、ついドスが効いてしまう。仕事ではまず使わない声。

 

 

 

最近男運が悪かった。

俺は女に振られたことはないんでござい、みたいな綺麗な顔をしたヒモ志願の男につきまとわれたり、

いくらなんでもここまでナメられたらお終いだ。


戸川は、差出人不明の封筒から出てきた、

部下の映っている写真を見て、頭を抱えていた。直属の部下が、薄着の女性と絡み合っていた。

早急にご連絡いただけなければ、同じ写真をマスコミに郵送しますと手紙に書いてある。

ここ数年の経営危機や二行合併の動きの中にあって、本当にいろいろなことがあった。

マスコミに連日騒がれるようなことも、あまり知られていないけど、内部の自分ですら苦笑いしてしまうような出来事も。

しかしみなさまの為の金融機関というイメージを、建前だけでも取り繕っている銀行にとって、

この手のスキャンダルはいつだって御法度だった。

不祥事がたくさんあったからといって、もうそれ以上、対応しなくていいということにはならない。

 

 


最近は不景気で、少しでも財布に札が入っていそうな人間を見れば、声を掛けて奢ってもらおうとか、定期的に世話になろうとかいう人々が街角に出没した。

主に女性、たまに男性。

振られて傷心の癒えない香田にとって、そんな女性たちと元彼女、華奈子との間の境界線は、薄まっていた。

仕事が終わると、酒を飲んで、誘われるままにラブホテルに行ったりした。繁華街も、慣れると悪くない。

通行人が、女連れの香田を羨ましそうな目でみたり、偶に絡んできたりした。

一通り遊んで帰ると、家で1人になっても、彼女と別れて寂しいと感じることが無くなった。

香田は、充実した気分でベットに横になっていた。多少、夜の街で散財しても、懐の痛むような給料ではなかった。この若さで、それなりに貰っていた。

今の直属の上司は、本社の広報から来た女性支店長で、何か功を焦っているというか、野心のありそうなタイプに見えた。

定年までつつがなく過ごそうみたいな、減点主義の堅物じゃない。吉兆だった。

流れに乗れば、香田にも出世のチャンスが巡ってくる、はずだ。多分。

 

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