すみま千円(漱石のほう)

レポート置き場かな?宜しくお願いします。

イチキュウハチヨン3

 

群れる女に共通の話題は必須だった。サッチー、真帆、アヤ。

恋愛や結婚に興味のない3人は、クラスメイトにハブられ、必然的に寄り集まった。

「真帆は、男の人、面倒くさいんだ。それは堕落じゃない?」

「ふんなら真帆は、堕落してないのか」

サッチーは真帆をめ回すようにみたが、本当はあまり見て見ぬふりだった。

その辺の男が、年配者が、女子高生をなめ回すように見る、そういう習慣をバカにした

身振り。例えばモノマネ、有名人の失言のモノマネ。

「ウチら、あんまりスペック高くないから、狩りにはいけないじゃん。置き網漁っていうか、気長に待ち」

「結婚とか狙ってないから、真面目そうな人も駄目だよ。

だったら酔っ払って声かけてきた、以外と気がいいオッサンとか、変な外人とか」

「子供、欲しくないし。欲しくないって分かった時点で別れればいいのか」

子供が欲しくない理由を説明するには、骨が折れた。

社会からマトモな扱いを受ける為には、大学パスポートが要ること。

そうやってFラン大学を莫大な借金を背負って卒業しても、ロクな仕事がなくて、破たんする確率が高いこと。その全てが自己責任で済まされて、子供も親も、ゴミの日に廃棄物として捨てられること。

 

「仕事が腰掛けなんじゃなくて、結婚が腰掛け。子供がデキないことがバレるまでの間の腰掛け。

そういうのもアリっていえば、アリなんだろうけど。

男の人は生殖可能年齢が長いから、ものすごく迷惑度が高いわけじゃないし」

「でもサッチーは、家事とか駄目じゃん」

「世間で言う結婚をするなら、ここにいる3人で結婚したほうが気がラクだよ」

底辺で月10万しか儲からなくたって、3人いたら30万だ。 

冷え切った夫婦や家庭みたいに、一緒にいて不愉快な相手でもない。

冷え切った家庭、その辺に腐るほどいた。

 

「バイト、クビ?ダサッ。元気だせ。いい仕事探そう」

暖かいのか、冷たいのか、よくわからない乾いた笑い。

「私は使えないからね。発達障害ってのらしい」

アヤは落ち込んでいた。励ます会ってうか、イジる会っていうか。他人の挫折も自分の糧だ。

「どういうの探してるの」

「体がラクなのがいい。とにかく体力ないし」

「客あしらいとかは、覚えればどうにかなるよ」

「高学歴、低スペック、みたいな枠、狙ってるんだけど。

学生時代は、机で本読んで人の話聞いてばいいから、ラクだったよ。

世の中、努力してどうにかなることと、どうにもならないことがあるし」

「日本人て、だいたいそうだよ。何事も平均に備わり、何事も平均に伸びると思ってて」

「ソレただの集団主義ジャン」

サッチーはストローで安いコーヒーを混ぜた。

「体力は普通にあって、要領が悪い、辺りの連中が最悪だと思う。ヒガミっぽくて、つねに他人を迫害してるよ」

真帆は勝手なことを吹く。

何事も平均に備わった人の事情なんか知らない。

だって私たちはこうだから。生まれつきの体質なんか変えられない。 

他人の事情なんか、話してもらわない限り、分からない。

だって彼らは、社会や他人に文句を言うだけだった。決して自分の事情なんか言わない。

きっとソレは他人に弱みを晒すことになるから。

そうしたら一斉放火を浴びる。ソレがこの工業社会の砂漠だ。

 

真帆たちは、飲み会の帰りに、道端で泣いている子供を見つけた。見た感じ、危ない状況だった。

辺りは既に暗かった。

電燈の下で、かろうじて蹲って静かに泣き声を上げる姿が見えた。

4歳くらい、5歳くらいか。

「どうする?声かけてみる?」

「何かヤバくない?変質者扱いされるかもしれない」

「女だから大丈夫じゃない?」

放っておける感じではなかった、少なくとも、彼女たちの感性では。

捨てられる猫を見つけた感じ。

誰も放っておきなよ、なんて言わなかった。

 

「変質者って何なの。男性だって、泣いている子供を可哀想って思う人はいるよ。男を不審者扱いするから、家事子育て全般、全部女に回ってくる」

「彼女たちは専業主婦っていう差別利権で食べてるから、それが仕事なんだよ」

「アレが、ウチらみたいな子育てに向かない女が生んだ子供の成れの果てなんだよ」

捨て猫みたい、でもコレは人間の子供だ。

きっと脇が甘い、ってことも分かっていた。

他人は他人なんて割り切れなかった。

真帆はしゃがみこんで、酒臭い息を吹きかけた。

「お姉さん、何で泣いてるの?迷子?お腹空いてるの?誰かにイジメられた?ウチに、ご飯食べにくる?」

顔を上げた子供は、見た感じ、女の子だった。

背後にいるサッチーが笑った。

「それって誘拐じゃん」

「ならサッチーはどうするの。通報するの。

家に送り返されるだけなのに。また親に殴られたり、ひどい目にあうんだよ」

「女でも、声掛けはセーフだけど、連れ去りはNGだよ」

薄暗い電燈の下で、サッチーのため息が聞こえる。