ちきうアネクドート

仕様でどうしても消せないが、リンク先の婚活業者はココとは無関係です。

侍2


日本人、ウイグル人ウルスラ)、どこかの難しい名前の田舎から出てきた奴(ミャオ)、四川人が1人(ハン、ロン毛)。

ノリは横にいる従業員たちを見て、この中ではロン毛が一番イケメンかな、俺は三番目くらいかな、と考えたが、

仮に自分が一番のイケメンだとしても、あまり関係がなさそうだった。

綺麗な格好をした女が、

俺たちを見て、排水溝に鼠を見たみたいな顔をして通り過ぎていく、もしくは、全く目線を合わせない。

ノリたちは、喉が渇いているのに、

ガラス張りで、テラスに席があり、白と青の縞模様のルーフなどが付いていて、

この地域の独自ブランドらしい、大きなカフェに入れなかった。

そこで提供される飲食物に払う金はあるのに、その敷地に入っていくことが、躊躇われた。

一番安い烏龍茶とかを頼んでも、気取った店員がスっとんできて、お客様、ただ今満席でして、なんて言われそう。


人は何故、こういうところで汚い格好をしていたり、安い服を着ていると気後れするのか。ウェイターに追い出されるまで水で粘ったりすればいいじゃないか。

俺はここへきて、めっきり日本人らしい行動を取らなくなったけど、

中国人も金で張られた結界には意外と敏感らしい。

ノリはネタでもいいから、「前の店入らない?」と言い出す勇気がない。

ハンが売店で飲み物を買ってくると言って立ち上がって、売店の方へ去っていった。

ついでにあの澄ました女に絡んで、ナンパしてみろよ、レッドネックの酔っ払いみたいに。俺はアメリカのこと、知らないけど。

それに、黒人やジャマイカ人だったら、ヒュー、姉ちゃん、良いケツしてるね、とか何とか、言うのかもしれないけど、

労働者は労働者だと開き直って、

でも俺たち少数民族だし、そういうの、あんまり似合わないじゃん。

この女に通報されたら、この現場をクビになったりして、とかビビリが入ってる。

 

 

 


タカはテント小屋へ戻り、ノリの姿を探したが、見当たらない。

タカは早く今日のことを誰かに話してしまいたい、

それは無理だけど、

とりあえず関係ない話題でいいから、話し相手が欲しい。

第一声で、どうしよう、さっき山で死体を埋めたんだよ、と言わないのは難しいが、

何か代わりの話をしよう。例えば、ノリの仕事のことを聞こう。

テント小屋の入り口には、日本語を勉強している中国人の書いて行った稚拙ないたずら書きで、日本人の家ですと書いてある。

ここでは日本語は通じないので表記として意味がないが、

自己申告しておいて、隠れ日本人としていじめられない為か。

それにたまに、近隣住人で、ラジオを直して欲しい、鍋を直して欲しいとかの雑用を持ちこみ、小銭をくれる人がいないことはないし。

日本人は、中国共産党の歴史教育などの成果か、大枠では嫌われてはいる模様だが、

多くの民族が雑居するここでは、個別対応で、

使える人と使えない人が仕訳される。

 

 


翌日、ノリたちは、カフェの前のマンションの建設現場に必要な機材が来ていなかったので、不審に思って、そこから通り1つ隔てたところにある施工主の事務所に向かった。

応募書類に正式に記載し、労働許可書などを改められるときに入った、あるビルだった。

そこで分かったのは、もぬけの殻ってことだ。施行主は俺たちの給料を払わないで逃げた。

もぬけの殻というか、正確には2、3人の職員が夜逃げの最中だった。

残りの荷物を持ち出そうと忙しく動いている職員が手を止めて、側にあった掃除用のモップで殴り掛かってきたので、ロン毛たちが応酬して彼らを追い払い、書類を漁り、別の支店の住所を手に入れた。ノリたちはそこへ向かった。

「でも俺たち、そこ行って、どうすんの」
「襲う」
「ふざけんな。俺は危ないことはしたくない」
「だって金ないじゃん」
「1週間分の給料は、返してもらう権利があるよ」
「いや、なんか労働局とか、裁判とか」
「そんなものはこの国にはないよ」
「そうなのか?」

男が5人揃うと、どうしても気が大きくなった。ノリたちが、後先を考える余裕は、あまりない。

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