ちきうアネクドート

仕様でどうしても消せないが、リンク先の婚活業者はココとは無関係です。

侍4


タカは死体を埋めた後、しばらく仕事が途切れた。

失業して、闇屋の事務所みたいな部屋に上がり込んでいた。

綺麗な家ではないが、人がたくさん入るだけのスペースがある。ただファイルキャビネットや書類が積み上がっているので、足の踏み所は少なかった。

闇屋の彼は、金持ちなのか、貧乏なのか、一見分かりにくい。

取引先で門前払いされるほどでもなければ、求職者連中を気後れさせるほどでもない、日本でいうとユニクロと言う感じの格好を、いつもしていた。

「この間みたいのは勘弁してください」

「この間のって何だっけ?ああ、あれな、へへへ」

闇屋は意味ありげな笑いを浮かべながら、10に住所か何かが書かれた紙らしきものを渡してきた。

「子守りっていうか家庭教師っていうの?そういうやつだよ。俺の取引先の上司の子供の」

いきなりホワイトカラーな職種を提示されて、10は戸惑う。

「そいつが言うには、日本人がいいんだってよ。良かったな」

タカは、条件が良すぎて怪しい、例えばこの間、埋めた死体の捜査が事件化したとかで、その代理出頭ではないかと思った。

現場を掘り返せば、死体と一緒に、穴を掘っていた10の髪の毛とか汗とかが出てくる。手袋はしたが、頭巾までは被らなかった。

捜査されたら、俺はアウトだ。中国の警察が、捜査なんかするかどうか、知らないが。

その不安を、タカは、闇屋に正直に言った。俺には土地勘がないから、この住所が警察のたまり場でないかどうかの判別がつかないと。

「辺りを窺って、大丈夫そうだったら、呼び鈴押して見りゃあ、いいじゃん。あの辺は治安が良いし。周りに警察なんかいないよ。

金持ちだから、警備員はいるかもしれないけど」

 

 

 

タカは、今まで庭師とか屋根の修理とかを頼まれて民家を訪問したことがあるが、目の前に居並ぶのは、その中でも立派な屋敷った。

果樹を両脇に配した小道を奥へ進むと、玄関には呼び鈴がついていた。タカは、顔を合わせた時点に、チェンジ、などと言われたらどうしようかと思案していた。

初めてのホライトカラー職、逃したくない。

僕は日本で高等教育を受けました。一橋大学です。くらいなら、マイナーでバレないかもしれない。

彼はリクスーなどは持っていないし、洗いざらしたユニクロが最もマトモな格好だった。

それでも呼び鈴を押すと、ドアがあいて、彼は屋敷の中へ案内されていた。

「ハシダさんね、ヤンさんから聞いていたわ。日本から来たのね」

婦人の口から発せられた、ヤンさんという単語がシュールだ。ヤンは闇屋だ。

どうやってこんな貴婦人とつながりを持ったのか。こう見えて彼女は、山に死体を埋めたりする類の人なのか。

「私はリンというの。あなたに面倒を見てもらう子供はアレン、旦那はツェーというわ。今は、外出していて、いないけど」
「お世話になります」
タカは深く頭を下げた。
「日本人をハウスキーパーや家庭教師にするのは、流行っているんですか?」
「そうね。あなたには、アレンの面倒を見て欲しいの。こんなところに生まれてしまったせいか、
何だか乱暴で手におえないのよ。サムライの流儀とやらを教えて上げて欲しいの」

子供に英名を付けるのは、中国人に流行っているというか、元々、子供を欧米へ留学させて、そのまま向こうで働いてもらったり、そういうつもりで子供を育てる人が多いという噂だ。

中国人はアメリカに追いつく勢いで上手くやっているけど、社会の状況に納得はしていない。

不安に思っている、という噂だった。噂しか知らない、タカには、中国の上流階級の知り合いなんかいない。今この瞬間、目の前の彼女たち以外には。

「この辺は、そんなに荒れている地区には見えないんですけど」

僕の住んでいる地区と比べたら、などとは口が裂けても言えない。あんなスラムに住んでいるなんて、知られたらきっと門前払いだ。

「確かに、お金持ちは多いわ。でも、心が荒んでいるのよ。この辺は、褒められたものじゃないお金儲けの方法が横行しているし」

お金持ちになる為の、褒められたものじゃないお金儲けの方法、それが何なのか、タカは彼女に、聞きたいが聞けない。

移民の身分じゃ無理かもしれないが、彼らの前で、分かってますという顔がしたい。

そうしたら、分かってる奴として、もう少し、お金儲けのチャンスが増えるかもしれないし。


タカは応接間に通された。そこへ座って頂戴。ふかふかのソファー、花なんかがあしらってあって、いかにもだ。

「何か飲むものを持ってくるわ。紅茶でいいかしら。今後のことを話しあいましょう」

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