ちきうアネクドート

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侍5


ウルスラは朝のメッカへのお祈りが終わり、携帯用の絨毯を畳んでバックに戻した。

いつか金を貯めて、現場のメッカに巡礼に行きたい。

それは中国の奥地に生まれたイスラム教徒としては、平凡な、言いようによっては、むしろ陳腐な、希望だった。

メッカへ行けば、恐らく彼は少数民族ではない。大きなイスラムの家の住人だ。

毎日5回の、このお祈りといい、俺は陳腐な人間だ。

ウルスラは建築現場にいた5人の内装業者の1人で、建築会社から金を取った人間の1人だった。

あのあと彼らは、事務所で見つけた地図にあった本店へ行き、未払いを、マスコミに流すとか警察にチクルとか脅して、給料分の金をふんだくってきた。

大きなマンションを建てている会社だけあって、彼らは、その手の悪評を好まなかった。

 


ウルスラは中国全土に、ウイグル人のネットワークがあるのを知っていた。少数民族の護身の手段だ。

建設会社の襲撃で、目をつけられたことは間違いないから、

そのウイグル人のネットワークを伝って逃亡し、しばらくほとぼりを覚ますつもりだった。

建設作業員が雇用主のところへ押しかけ、正当な給料を持っていた、大した事件ではない。中国にこの手の事件は多いから、しばらくすれば人々は忘れてしまうことが多い。捜査もされない。

が、ウルスラが2人目のウイグル人を訪問したときに、相手から発せらた挨拶は、彼を驚愕させた。

「あんた、公安テロリストとして告発されてるよ。知ってるか。知っててここに来たのか?」

「嘘つけ。俺が何をした。俺が聞きたいくらいだ」

「あんたは大きな建設会社を襲った」

「正当に給料を払って貰っただけだ。どこがテロなんだ。それに何で、あんたのところまで、噂が回ってるんだ」

「公安がテロといったらテロになるんだよ、ここでは。
しばらく俺たちには、近づいてくれるなよ。
その代り、地下に潜ってるやつらの連絡先をやるから、それで勘弁してくれ」

 

 

 


ノリは、テントにこもって、これからの身の振り方を試案していた。薄汚れた白いテントの狭さが、自分の行動範囲を暗示していた。

会社を襲った他の建築現場の仲間には、連絡先などを聞きそびれて、相談の1つもできない。

迂闊なことをしたとわが身を呪った。

「おい、ノリ、大変なことになった」

ミャオの訪問は、天啓だ。薄暗いテントに、外の光がサっと広がった。

「ミャオかよ、何でここが分かったんだよ」

ノリは救世主を求める目でミャオを見た。

俺は日本人、彼は中国人、こういうときの対処法も、行動範囲も、彼の方が圧倒的にありそうだ。

「お前は、主犯格だとされている」

「ふざけんな。襲撃を言い出したのはミャオだし、モップで従業員を殴ったのはロン毛じゃないか」

「お前は日本人だから。それは否定しない、でも」

ノリとミャオは、2人でテント村をうろつきまわった。

「一番の最悪なポイントは、建築会社の重要資料と、金を持って逃げた奴がいることだ。

そいつが盗んだのは、俺たちの給料だけじゃない。

俺らが押し込みに入った、あの本店のオフィスには、他人に見られたくなかった重要書類と、

会計上不正な処理をして警察に訴えられない類の金があった。それを取ったやつが、

俺らの中にいるか、または、他の奴がドサクサで取ったんだ。社員とかがな。俺たち押し込みに責任転嫁しようとして。

それがとにかく、全部、俺らのせいってことになってる」

「逃げたほうが良いのか」

「当たり前だ」

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