ちきうアネクドート

仕様でどうしても消せないが、リンク先の婚活業者はココとは無関係です。

侍6

 

「俺はロン毛が怪しいと思ってる」

ロン毛、長髪だからロン毛と呼ばれていた。あの中では、一番のイケメン。

現場で汚れた服を着て居れば、女からドブネズミみたいに見られるから、イケメンでも意味がないんだけど、

ノリはロン毛を詳しく思い出そうとした。

彼ならウェイターとか、営業社員とか、もう少し楽な仕事はあったかもしれない。

そういう意味では、ロン毛は、建設作業員をやっていたこと自体が、怪しい。何か犯罪計画、下心があったとか。

「あのな、俺はしこたま貯めてたんだ。
俺は、昼間は建設作業員。夜はデイトレーダーってやつ」

「へえ」
ノリは、羨望のまなざしでミャオを見た。

そして、思った。お前もロン毛と同レベルで怪しいじゃねえか。

何で建設作業員なんだよ。

夜はデイトレ、昼間もデイトレにすれば、もっと儲かるんじゃないのか。昼間は、証券の営業とか。

それか、あの工事の仕事は、体のなまりがちなホワイトカラーの、スポーツジムの代わりなのか。

「その金がそっくりいかれたんだ。これが許せない。
お前みたいに、一週間分の給料が飛んだとかいうレベルじゃない。

俺が資金を隠していた、銀行の金庫の場所を知ってたのはロン毛だけだ」

ミャオとロン毛は、仲が良かった、らしい。20にとって彼らは、ますます怪しかった。長髪のイケメンと、金融に通じた小賢しい奴。

でも、怪しいと思っていることがバレてはいけない。探りを入れよう。

「ミャオはどうするの?」

「ロン毛を探し、金を取り返す。お前にも協力してもらう」

「いくらか分けてもらえるのか」

「もし本当に役にたったら1割くらいは、やっても良いよ」

「俺たちは警察に追われてるんだろう。しばらく大人しくしていた方が良くないか」

「金は待ってくれない。ロン毛が何かに変えてしまえば、お終いだ。証拠ものこらないし、取り返せない。俺はそんなのは許せない」

「そんなこといっても、下手に動いて捕まったら大損じゃないか。そうしたら、金も永久に戻ってこない。そういえば」

ノリは売店で買って飲んでいたペットボトルを振った。

「ロン毛のこと、警察に訴えることは考えてないのか?」

「俺たちは襲撃犯だ。あそこの建設会社はけっこう大きい。警察にも顔が効く。

俺たち犯罪者同士の金銭トラブルなんか、取りあっちゃもらえないよ。自力救済あるのみだ」

「俺は大した金を取られてない。俺が断ったらどうする」

「お前は犯罪者のクソ日本人だって、行く先々で吹聴するのみだよ」

「そのうち俺は豚箱行だね」

「そう、中国の豚箱は中がどうなってるか、サッパリ分らない。俺たちですら、分からない。

フィリピン並みって噂もあれば、北朝鮮並みっていう噂もある」

「おまけに日本人だったら、中国の囚人たちの憎悪の的だ。並のリンチじゃ済まない。俺はあんたに協力するしかない」

ノリは飲んでいたペットボトルの残りを、ミャオに吹っかけた。悔しいが、他に方法がない。

水しぶきを浴びたミャオは濡れた顔をぬぐい、それをノリの合意のしるしと受け取った。

 

 

タカは、小さな個室に寝泊まりを許された。リンの旦那の着なくなった服を借り、大きなシャワールームも使える。

夢みたいな生活、大出世だ。追い出されないように、しなくては。タカは鏡の前で、キリッとした表情を作ってみた。

この屋敷の子供は9歳の息子と11歳の娘がいた。坊ちゃん刈りのアレンと、ゆるいカールにリボンをつけているメイシー。

出生当時の一人っ子政策の元では、当局へ一定のお金を払うと、第二子にも戸籍が付与された。

奥さんは、タカに、そのように説明した。別に違法な子供ではないと。

それから子供部屋をノックして、アレンの宿題の手伝いをした。

今、目の前の椅子には、アレンが座っている。

消しゴムのカスを、タカに飛ばし始めた。彼らは、パソコンを使った学習だけではなく、書いて手で覚えるドリルもやった。

「もう飽きたんですか。アレンくんは、数学は嫌いですか」

「だってつまんないし。遊ぼうよ」

「あと2ページやったら、遊びましょう。お母さんは、あと1時間帰ってこないから、早くやってしまいましょう。チャンスです」

アレンは、一旦やるとなると、早かった。まるで天才少年だ。

金持ちの子供は、頭が良い、そうなんだろう。

タカは、相手が小学生でよかったと、心から安堵した。中学生とかだったら、即クビなんじゃないか、こいつ、使えないよ、俺より頭が悪い、とか言って。

 

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