ちきうアネクドート

仕様でどうしても消せないが、リンク先の婚活業者はココとは無関係です。

侍8


「取られた金を取り戻しに行ってきます。しばらく帰りません」

紙切れがテントの奥に置いてあった。日本語で、ノリの字が、タカには分かる。

本来、タカの目にしか触れなかったはずのものだ。

「こういったら悪いんだけど、ノリが金を持って逃げたと思うんだ、俺は」

ハンの泥棒呼ばわりに、タカはカチンときた。

「何か心当たりがあるのか?」

タカとノリは、金の話などしたことがない。晩飯をおごったり、日本に送金したり、そんな感じ。誰にいくら送ったとか、いくら貯めているとか、そういう話はしたことがなかった。

「ノリは書類の束を持って逃げた」

「勝手なこと吹くなよ」

タカは同居人を一方的に犯人扱いされて憤った。書類の束なんか、見たことないし。

「確かに俺たちは、いろいろ強奪して逃げたんだ。

例えば、部屋の奥にあった金庫は、重くて持ち上がらなかったから、止めたけど。

その辺にあった小銭とか、大事そうな紙とか、適当に持って逃げたんだよ。

例えばウルスラは、壁に掛かっていた安っぽい絵を取って言ったよ。あんなの、売れないと思うけど。趣味悪いし」

「書類の束っていうのは、何なんですか?」

アレンが好奇心に目を輝かせていた。ツェーは、息子を見て渋い顔をしているけど、耳がダンボって感じだ。

この手の不正は、社会の上層部とつながっているから、彼らには無関係ではなかった。

「地元の幹部を、口利きをして接待漬けにしていたっていう証拠だよ。領収書とか、念書とかが入ってる」

「でも、そういうのって、中国では普通じゃないですか」

ハンの代わりに、ツェーが答えた。

「メディアが騒げば分からんよ。上の人に不満を持っている人はたくさんいるから。俺たちは不公正な社会に甘んじているけど、水に落ちた犬は叩いていいんだ」

 

 


「ツェーです、ご無沙汰してます」
「どうかしました。何か面白い話でもありましたか?」

「あなたの汚職の証拠を持っている人がいます。創華ビルヂングの件です」

「確かに、私は複数の建築会社とつきあいがあるよ。そんなことを、あんたに話した記憶はないんだが、ツェーさん。誰から聞いたのかね」

「工事現場の人夫が、創華ビルヂングに押し入って、金や書類を取って逃げたんです。彼らは給料の未払いで押しかけたそうです。

本人たちから聞きました」

 

 

 

 

タカが眠ろうとすると、アレンが、珍しく自分の下宿部屋に入ってきた。

「パパが先生のこと、チクったよ」

「チクッた?誰に?」

「偉いオジサンだよ。知らないけどさ。先生はヤバいかもしれない。ヤバくないかもしれないけど。パパが電話で話してるのを聞いたから」

「でも、俺は何も悪いことしてないんだよ。ヤバいのかな?俺は、ここにいたら迷惑かな?」

タカは途方に暮れた。ツェーの一家に迷惑が掛かるなら出ていかなくてはいけないし、ツェーが敵にまわり、自分の身柄がヤバくても逃げなくてはいけない。

汚職の証拠が何とか言ってたけど。それは昼間、先生のテントでも聞いたけど。

多分、パパの電話しているオジサンが、その会社の汚職の相手なんだ。だから先生はヤバイ

 

広告を非表示にする