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2:忙しいので書き殴りです、後で直します(すまん)

仕様でどうしても消せないが、リンク先の婚活業者はココとは無関係です。

ロックバンド・インパール5


彼らはNHKに来るのは初めてだった。意外だが、そうだった。

「なあ、俺はペルシャたんが心配なんだけど。さっきも玄関までついてきたし、寂しがってる」

ペルシャたんはシャネルの買ってる猫だ。バックストリート・クリムゾンのメンバーは3人。

「大丈夫だよ、ペツシャたんは、シャネルなんか必要としてないんだよ。鬱陶しいオッサンがいなくなって良かったニャンって感じ。

アイツ、すぐ体を撫で回すから毛が抜けちゃうんだよね、とか。部屋が広くなったな、とか。

それに4時間くらいだよ。すぐ終わるだろうし」

「シャネルはシンセいじるときどうしてるの?猫の毛とか入らない?」

「分かんない。確かに、俺のシンセは良く壊れるよ」

知らないテレビ局へ来ても、メンバーとしゃべっていれば、そこは自分の家みたいになる。

自分で音楽を作って流せば、全部が自分の家になる。

 

 

 


しかしこのドブネズミ集団は何か。

スーツで行こうと言いだしたバカは誰だったのか。

彼らはクローゼットの奥から、5年くらいほこりをかぶっていたリクスーを引っ張り出した。

2着で1万円とか、そういうやつ。貧乏時代の形見とでもいうか。

着る機会がほとんどないから、金がたまっても買い替えることはなかった。

周りもバックストリート・クリムゾンのスーツ姿なんて、期待してないし。逆にビビルだろう。

音楽やめたんですか。売れないんですか。ドサ周りですか。

M資金が横を見ると、シャネルのスーツの袖口には、猫の毛がついていた。

こいつも本当にやる気ネーヨ。

「さて、バックストリート・クリムゾンさんは、栄えある紅白出場に決まったわけですが」
「そうなの」
「いや、まだ出るとは決まってないのですが」
「え、そうなんですか」
「いや、マネージャーが、パンクバンドのイメージがどうのとか言って」
「パンクバンドがNHKとか出ると格好悪いし」
「NHKは、マイナーなバンドにも、下級文化にも、理解ありますから、裾野が広いんです」

マイナー?下級文化?M資金の空耳アワーが始まった。

たまにいるのかもしれない、こういう煽りがイケてると思っているやつ。

でもこの人、けっこう上級社員だよね?上級社員っていうのが、何なのか知らないが。俺たちみたいに、安易に人にケンカを売ったりはしない。

最近巷にはびこる、何いうてんねん、とか、ツッコミを貰うと喜ぶ、悪しき慣行。

オラ!オラ!オラ!ミュジックチャンプ辺りが流行らせたのか。

この界隈は、変なものが流行ることがある。

俺たちは用事がなければ引きこもっているのが基本なので、流行にはついていかない。ついていかない。

俺たちが流行を作る、嘘です、すみません。M資金は面接の進行を隣の2人に預けて、脳内会話をしていた。

俺たちの音楽は過去のパクリとかそういうので成り立っているけど、パクリで成り立っていないバンドなんてないじゃん。

今時新しいコード進行なんか考え出したら、ノーベル賞ものだった。

それで、今回はどういう雑誌の取材なんだっけ。

「紅白に出られるのは、名誉なことですよ」
「マイナーなバンドつうか、オッサンは一応、サラリーマンじゃないの?」

一応貴社、とか、私ども、とかいうじゃん。オッサンで、ここまで口のきき方を知らない人は珍しい。俺ら舐められてる。

舐められてるのだが、俺らも彼らを舐めてはいまいか。

砕けた感じのインタビューでは、こういうのが、普通なこともあるとはいえ、一応、俺たちはスーツとか着て来たし。

「お気に召しませんか。すみません、他にどう表現したらいいですか」
「うーん、無理しなくていいんじゃないかな」
「そうそう、無理に、紅白に出さなくてもいいと思いますよ、マイナーなバンドとか、下級文化は」

M資金の空耳アワーは二重奏になってきた。ティラノザウルスは珍しくシラフだが、何を言っているのかわからない。

シラフでも、彼はしゃべらない方が、バックトリート・クリムゾンの奇行とか報道されなくてありがたい。

スーツを着ていても、彼は彼だった。スーツを着たくらいで人は変われない。

普段のティラノザウルスはどうしているのかというと、

彼の周期的な薬物依存は、業界ではある程度知られているので、相手が斟酌してくれることもある。

目の前のスーツのオッサン群は、そういうことは、手加減しない意向のようだ。

でもオッサンの目も、心なしかイってる気がするんだけどな。

M資金は薬物依存者を沢山見てきたので、群衆の中に彼らを見分けるのは得意だ。

で、俺たちは、何しに来たんだっけ。

「だからこそ出て欲しいんです。NHKは、お高く留まっていると言われますから」

空耳では無いことが分かってきた。ティラノザウルスもシャネルもイラついている。

彼らはイラついたとき、さまざまなリアクションを取った。

椅子を蹴って奇声を上げるとか、飲んでいた酒を吹きだして、ライターで火をつけるとか。

時と場所によっては、それが聴衆を魅了するパフォーマンスになることもある。

もちろん、シャレの通じる相手に限定なんだけど。ここでは駄目だと、M資金は思った。俺らも、スーツだし。彼らも、スーツ。いろいろ、拘束されてる。

「視聴率の為なら、ヤクザも出すとか」

「何言ってるんですか。バックストリート・クリムゾンさん、まるでヤクザみたいですよ」

「ヤクザとか出さなくていいでしょ。何なら、俺たち、ヤクザだし」

変なスイッチの入ったティラノザウルスとシャネルに、M資金は焦った。俺がいないと駄目なのかよ、お前ら。空耳アワーなんか、してる場合じゃない。

M資金だって目の前のオッサンたちには不審を抱く。

何か悪意があることは確かだ。揉み手をしながら、丁寧な言葉で他人を侮辱する人は大勢いる。

「何、キレてんだよ」
「だって感じ悪いし」
「俺、だいたい、受信料払いたくないんですよ」
「っていうか、お前、払ってないジャン」

この中で話についていけてないのはM資金だけだった。

キレるタイミングも逃したし、感じ悪いとか、何の話だったか忘れてしまったし、

受信料を払うとか払わないとか言うのも分からない。

M資金は言おうと思った。俺は多分、NHKの受信料は自動口座引き落としだよ。冷静になって下さい。

「テレビ持ってないし」
「え、払ってないの。聞き捨てならないですよ、今の」
「紅白で、みんなー、受診料払うなよって叫んでいいですか?」
そうそう、ここはNHKという放送局で

そこの歌番組に、俺たちは出演するとかしないとかいう交渉に来ていたんでしたっけね。

ティラノザウルスの煽りに、オッサンはキレなかった。

ティラノザウルスもシャネルもキレなかった。

長い会議用机を挟んで1分くらい沈黙が続いた後、

彼らはどちらからともなく、何となく解散した。こんな不発なインタビューは珍しい。

ティラノザウルスは、シャネルの袖の猫の毛を取ってやった。

俺らが柄にもなく、スーツ着てきたのが悪いんだろう、多分。

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