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ちきうアネクドート

仕様でどうしても消せないが、リンク先の婚活業者はココとは無関係です。

ロックバンド・インパール7

 

「中野さん、中野さん、探してたんですよ。捕まって良かったです。お忙しいところをすみません」

シャネル?

シャネルってこの間、俺が面接で不始末をしでかしたバックストリート・クリムゾンのシャネルだ。

いや、不始末をしでかしたのは、向こうだ。

そんなことより、

これは自分に尻尾を振る犬の声色だ。

取材をかたくなに拒否していた相手でも、事情が変わると、態度を180度変えてくることがある。

中野は打ち合わせ用に出してあったパイプ椅子に座りなおした。

「あやまりたいんですよ。俺たちNさんに、失礼な態度を取っちゃったかニャって」

「はあ」

気乗りのしない口調とは裏腹に、中野の胸の辺りに希望の灯がともる。

中野は、バックストリート・クリムゾンのメンバーが席を蹴ったことの責任を、局内で取らされそうになっていた。

一体全体、こんなことが減点になるのかと、彼は混乱していた。

NHK紅白歌合戦への出場を断るミュージシャンは少ない、

少なくとも事前に打診した時点で断らなければ、何か面接した人間の対応が悪かったか、

もしくはただの気まぐれか。

中野は確かに、こういうことは得意ではないが、

チンドン屋の気まぐれに俺は将来を潰されるのかと、血を吐きそうな気分になっていたところだった。

 

 

「バックストリート・クリムゾンさんたちは、紅白歌合戦に出場するのかしないのか、っていう瀬戸際なんです」

「瀬戸際ですか」
「大した瀬戸際じゃないじゃないですか。どうでもいいじゃないですか。俺は紅白なんて見ないし」

「そんなことないですよ。視聴率30%くらいありますよ、あれ」

「くやしいですね」

「ミュージシャンの間で、紅白のステータスは高いんですか」

「正直、むしろダサイと思います。すみません、でもそういう風潮はあります。大物は紅白に出ないっていう」

「まあ俺たちは小物ですから、見ての通り」

「あのね、俺は聞いてほしいのねん」

「はい」

「俺もH田につきそってNHK行ったことがあるんですけどね、

紅白でワウワートゥナイトとかいう、アホみたいな歌うたったんですけどね。こいつ猿ですから。

でも彼らの、あの上から目線には耐えられませんよね。

あんたみたいな猿にも出場枠はあるんですが、土下座しますか?っていう勢いで」

カメラの横に立っている、Pが首を振った。もっと中立的なコメントにして。まるで俺たちが某国営放送をイジメているようではないか。

これから流すのはただでさえ不謹慎なVTRで、企画会議を通ったのもスレスレなのに。

しかしM本には本当にそういう経験があるので、Pの哀願をシカトした。

「俺たち、本当に土下座したんですよ」


「では、VTRスタート」

 

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