ちきうアネクドート

仕様でどうしても消せないが、リンク先の婚活業者はココとは無関係です。

ロックバンド・インパール10

 

過労死した美人社員の顔写真と、硬直した縦社会の中で、仕事を断れなかった旨のツイターが拡散すると、
D通は、非難にさらされた。

ついに国策捜査がやってきた。

労基は連日ガサ入れを続け、D通は、スポンサー経由でマスコミに報道しないように圧力を掛けたものの、世間でD通は、ブラック企業の代名詞になっていった。

オフィスの入り口で匍匐前進をしてタイムカードを誤魔化すなど、彼らの順法精神の欠如が明るみに出た。

W民の次はD通だ。

W民は、店舗からグループ名を隠すなどの姑息な手段で生き残っている。

当然、同じような生き残り策が模索された。

10年ほど前から、テレビCMは売り上げに貢献しないなどの噂が、企業人の間を流れていた。

客のランクは下がりつつある。

出来るCMも、何だか危ないものになっていく。

 

 
「根性注入棒って何ですか」
霞が関にはないですか、そういうの」

捜査官が棒を興味深そうに眺めている。遺跡めぐりか。

国会の会期中には徹夜もどきが続くことがあるし、彼らの労働時間はウチとそんなに変わらないのではないだろうか。

何なんでしょうね、この文化の違い、とD通幹部3は思った。

公務員試験とD通の両方受けていた奴は知らないし、何が2つを分かつのか。チャラさへの情熱とかだろうか。

 

総務省の下っ端は、棒を見ながら心配になった。D通の社員ごときに、

おたくは、黙っていても、お金が落ちてくるから良いですよね、

根性注入みたいな義式なんか、いらないですよね、とか言われたらどうしよう。

彼らは国策捜査でD通を荒らす自分たちを、目の敵にしている。D通職員が気を利かせて言った。

「この棒、何なら持っていきますか。僕らはもう使わないですし。国運が上向くかも」

「今更そんなイヤミを言っても、どうにもなりませんよ」

 

 

お前らは過重労働を叩いているんじゃなかったのかよ。お前らのせいで、俺たちは過労死寸前だよ。

彼らのポテンシャルは半減していた。

霞が関に初老のオッサンが6人、足取りが重い。

全員、かなりの重役連中だが、過労のせいで、整った顔(例外もある)に刻まれた細かい皺は皺はますます深くなり、

整髪剤で無理やりテカりをつけたごま塩頭から、白いイモ毛が出ているが、ダンディが身上の彼らも、互いに指摘しない。

指摘しても仕方ないことは、指摘しない。

そろそろ寝不足がキツイ年になり、若い頃はいくら働いてもアドレナリン以外のものは何も湧いてこなかったのに。

 

D通幹部3は、上を見上げた。

何度見ても、全くダサイ建物だった。マジック・ミラーくらい使えばいいのに。

上の方の窓には、網がはってあった。

あれは自殺防止用という噂だった。

大上段から人々に過労死をしいている、お前らこそが叩かれろと思う。

うちは今、労基に踏み込まれてかなりゴタゴタしてはいるものの、霞が関にも死人は多いという。

彼らが窓枠を外して外へ飛び降りるに至る理由は、D通幹部3たちとは、違うかもしれないが。

マジックミラーに金網は張れないが、その代り、椅子を思いっきり叩きつけても割れない強度があるから、そんなものは必要ない。

ただ残念ながら自殺の手段は、飛び降り以外にもいくらでもあった。

 

 

D通幹部1は、指を折ってみた。

現役政府閣僚の子弟A、かつてのJ民党のドンの子弟B、総務省幹部の子弟C、いかなスキャンダルを起こそうが、うちが潰れるとは考えにくい。

同輩のシケた顔を見ると、昔の飲み会のノリに戻って、雄たけびの1つも上げたくなるが、

今日は大人しくしていないといけないし。今日はっていうか、最近はずっとエクストリーム謝罪、お辞儀は腰からしっかり、60度。

こういうの新人の頃に死ぬほどやったじゃん。当時の苦労を思えば、何でもない。

しかし、謝罪の先が、何故こいつ。

「この件は、そろそろ、お終いにしよう。過剰労働という社会悪を撲滅せんとして、君らは十分叩かれた。禊は終わったよ」

D通幹部1は、そんなことを言ってくれそうな政府関係者の顔を思い浮かべ、次から次へと湧いてくる不吉な想像を止めようとした。