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ちきうアネクドート

仕様でどうしても消せないが、リンク先の婚活業者はココとは無関係です。

Rio Grande7

 

ナタリアは駆け足で上がってきて、思いっきりドアを開けた。何よ、とアドリナは思う。彼氏でもできたのか。

「これ、上げるわ」

外出先から狭いアパートへ戻ったナタリアは、安手のバックをガサゴソさせると、アドリアナに札束を差し出した。

唐突に出現した、見たことも無いような、分厚い札束。本物なのか、偽札なのか。

アドリアナは頭を抱えるハメになった。

アドリアナは、頻繁にあの変な男に店から連れだされるナタリアを、気の毒だと思っていた。が、自分へ身の危険が及べば、そういう同情はすぐに吹き飛ぶ。

この娘はやっぱりトラブルメイカーだった。

若くて綺麗で、人々を引き寄せ、芳香を振りまき、いらぬ害虫まで招きよせ、近くの人間に虫食いが広がる。

「アドリアナには、娘さんがいるでしょう。コレをすぐに、故郷へ送金して欲しいの。

このお金は盗んだものだから、手元にあったらマズイの」

「見れば分かるよ。そんな大金、稼げっこない。どこで盗んだのよ」

「あの、カリブの太陽を連れ込み宿だと勘違いしたキモ客の家よ。

あの男はどうせ、あんまり大騒ぎはできない。

いつもああやって女を脅して押し倒してるんだから。

性犯罪に、不法移民もクソもない」

「確かに、娘には送金したいよ。娘に高等教育を受けさせたい。アメリカへのパスポートが欲しい。

でも、こんな不気味なお金はいらない。こんなものを受け取ったら、何が起こるか分からないよ」

「とにかく送ってしまえばいいのよ。パパッと。それで、お終い。

不法移民向けの送金制度っていうのは、そこまで厳密になってない。利用記録から、身元が判明したり。

そんなんじゃないの。

私たちにはソーシャル・セキュリティ・ナンバーもないし」

たしかに不法な身分で稼いだ金の、全てが違法だ、と言うことはできる。それと盗んだ金の、どれだけの違いがあるのか。

カリブの太陽の給料は、しみったれていた。

 

「ウェットバックを、本当に撃ち殺すんですか?」

ウェットバックはメキシコからの密入国者の略称だ。リオグランデを渡ってきて、背中が濡れているのでウェットバック、らしい。

「それはいくら俺でもマズイだろうな。

あくまで威嚇射撃だ。腕のいい奴を用意しろ。

決して当ててはいけない。

だが、追い払うだけの威嚇行為になっていないと、意味がない。

1センチくらいのところを狙って、ションベンをちびるほどビビらせるんだ。

二度とリオグランデを渡ろうなんて気を起こさないように、だ」

「国境沿いの、高い壁は、本当に築くんですか」

「その方が、射撃がしやすいなら、足場を作るよ」

ヒランプは、不法移民の入り口になっている、リオグランデ近くを視察し、現場の保安官と気さくに話をした。

壁はどんなのが良いか、メキはどんなことにビビルか。

ウェットバックは多過ぎて、とても全員は捕えられない。川沿いの国境警備隊など、焼け石に水だった。1人捕まえている間に、他のメキが脇を通りぬけていく。

だからメキシコ人にとっては、入国できるかどうかは、運次第だ。

ヒランプはビジネスの天才だった。

リオグランデに壁を築くだけで雇用が生まれる。支払いは税金で。

ある意味、ボロい。

共和党の、そういうところは、左翼的だ。

警備員を雇いましょう。

鉄砲を買いましょう。

軍備を増やしましょう。

世の中、物騒ですよ。

かといって、ドアを開けっ放しにしておくと、狼藉を働く奴が現実にいないとも限らないから大変だ。

 

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