ちきうアネクドート

仕様でどうしても消せないが、リンク先の婚活業者はココとは無関係です。

Rio Grande12

 

「お兄さんは、ナタリアのことが好きなの。いつもナタリアの側の席へ行くね」

サリマは語学教室のスタッフをからかった。同じくらいの年の、白人の男の子だった。語学教室は、メキに敵対的な人はいないから、居心地はいい。それに、ここへ通っていれば、生活がしやすくなるし、いつかもっと、いい暮らしにつける。

「あんただって人のことは言えない、ナタリアとよく話してる。

ココでよく見る顔だよ。あんたの子供はチカーノなんだ?あと、俺はイアンっていうんだけど、良かったら、覚えて」

イアンは適当な人種だった。

要領良く語学教室のサポーターの採用試験も受かるし、他の職員の見ていないところで、アメリカ国籍をチラつかせて、不法移民のナンパもした。

でもイアンは、本当に気に入った女性にしかアプローチしなかった。

アメリカの女性は気が強いか、奥手すぎるかして、いずれにしても、奥手のイアンには手が出しにくい。

そういうイアンが、メキシコの女の人相手には積極的に出れた。いいのか、悪いのか。自分より、立場の弱い女性には、安心して胸襟を開ける。俺はそんな男か?

「よく見る顔も何も、私達は、英語を学びに来ているだけよ。よく見る顔なんだったら、少しばかり人より熱心なだけ。

この子、ノエルって言うんだけど、ノエルは英語しかできなくて、私はスペイン語しかできない。そんなんじゃ、困るから。

それに、ナタリアはセクシーよ、イアンさんが、好きになるのは分かるよ」

ナタリーは噴き出した。

「セクシーでも、イアンに好かれていても、あんまりいい事なんかないよ。サルマは、滞在許可があって羨ましいよ」

ナタリアはノエルのほっぺたをつついて笑った。ノエルはナタリアが好きだった。ナタリアが側に来ると、よく笑う。小さい赤ちゃんにも、綺麗な女の子が分かるのか。

「俺に好かれていいことが無いなんてひどいよ。何かいいところを探してよ」

「メキにも親切なところ。片言のスペイン語が話せること、英語が完璧なこと。生まれ育ち共に、アメリカ人なこと」

それって便利ってことか、イアナには、何だか不満な答えだった。彼は少しやさぐれて、何となくこんな露悪的なセリフを吐いた。

「そうだね。何なら、ナタリアは、俺の子供を産めばいいよ。ノエルみたいな可愛い子を。そうしたら、一生ここにいられるから」

「イアンは、怖い事言うね。そういうの、逆に、強制送還されたりしないの。何か問題になってるよ、国籍取得の為の出産ツアーとかいって。

そういうこと言うと、KKKにリンチされたりしないの」

メキシコの女の子をナンパするのは、法律違反じゃない、身辺にKKKはいない。ナタリアは怒ったのか。

メキシコ人は怒ってもきっと、怒った顔を見せることができない。彼女の言う通り、正式な市民である、アメリカ人に対して、不法移民の彼女たちは怯え、いつも頭を低くしている。

「悪かったよ、俺は女の子へのアプローチの仕方がわからないんだよ。もしかして俺は、女の前で金をチラつかせるような、嫌な男か」

「それは一理ないことは無いよ。旦那のホルヘは、どうでもいいチャラ男だった。

でも子供ができたら、いい男になったよ。やっぱり、アメリカの滞在資格が得られたせいかもしれないけど。

それで、トランプのやってるアレで、彼は、毎日、リオグランデでメキを威嚇射撃してるの。それって、良いのか、悪いのか。既得権益って感じなんだけど。

自分はウェットバックとしてやってきて、他の奴らを追い払うの。それって、どう思う?」

「サルマ、私の相手は、メキじゃないわ。

子供が出来たと知ったら、逃げていくかも知れない。

英語の怪しい女なんて、要らないかもしれない」

「そんなことねーよ、ナタリアは悲観的だよ。

チカーノって、もっと、テキーラ飲んでサボテンの前で踊ってるような奴ばかりだと思ってた。

それでも俺は何故か、ナタリアが気に入ったんだけど」

「アメリカ市民の時給は最低でも600ペソ、不法移民なら200ペソよ。運が悪ければ、不払いってこともある。

この状況で、楽観的になるのは無理よ」

そういうこともある、と、サルマは言った。

「仮に彼氏が逃げても、それでも正式な滞在資格は得られるじゃない。男に逃げられたって、シングルマザーになればいいし」

「だから俺は逃げないっていってるだろ。もし逃げたら、ココの職員に聞けば、俺の住所から社会保障番号から何から全部、分かるよ。あんたら、本当に人間不信だな」

 

 

 

 

ホルヘは雇用主に言われた通りに、リオグランデで威嚇射撃をし、

ハックマンは壁の仕事が終わったので、延長を申し出て、引き続きこっちで雇用された。

ハックマンは食肉工場でメキシコ人を雇っていたから、片言のスペイン語ができるし、ホルヘは語学教室通いの甲斐があって、片言の英語ができた。

ほとんど仇敵みたいな間柄だが、気にならない。こうして並んで、同じ銃で同じ標的を撃つことは、連帯感を生む。

「あんまり減らないね。ウェットバック。命が惜しくないのかな、奴ら」

「俺らが、当てないことを分かってるからじゃないですか」

「でも9割方は、逃げ帰ってますよ。それに銃弾を避けながら、水の中を進むのは難しいでしょう。

進んだところで、壁があるから、無駄だし」

ハックマンは久しぶりに猟銃が撃てて、機嫌が良い。

一日中、肉を切って帳簿をつけているより、ストレスが溜まらなかった。隣で銃を撃っているホルヘがメキでも腹が立たない。

「あんたはラクだったのか、密入国

「一緒に来た奴らで、3人くらいリオグランデで脱落してたし、送り返された人もいます」

「あんたは、奥さんと子供がいたんだったよな。だけど、みんながアメリカに来て子供を作ったら、どうすんの」

「そういうの、メキシコ人だけじゃないですよ。中国人とか、多いですよ」

「その分、俺みたいな独り者がいるから、丁度いいのかな。ハハハ。この前、別れた女房に連絡したんだけど、やっぱり男がいたみたいで、駄目だった」

「女なんて、また作ればいいじゃないですか。この仕事、悪くないですよ。生活できないってことはないです。少し物騒だけど」

 

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