読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ちきうアネクドート

仕様でどうしても消せないが、リンク先の婚活業者はココとは無関係です。

Rio Grande14


入管のウィルビーは、アドリアナのIDカードに興味を持った。不法移民用のIDカードなんて、聞いたことがない。どこにも記録されず、カード類が持てないからこその、不法移民だ。


「ウィルビーさん。私に高いお昼ごはんをおごっても、あまり意味がないよ。

こんなに高そうな場所で、美味しい食事をとったのは、ほんとんど人生初めてって感じだけど。それは嬉しい。

でも、私の回りに不法移民はいないよ。カリブの太陽の従業員は、全員、あのカードを貰ったんだから、もう不法移民じゃないし。

私には、カリブの太陽以外には、行動圏はないし。食肉工場の人たちとは、連絡を取ってない。

だって、私とナタリアはあそこから逃げたんだから、居場所が分かったら困るの。

私がどこかで、クスリの取引をしたり、してると思うの?」

広い店内に落ち着いた内装、美味し過ぎて何の味かわからない、何料理っていうの、コレ。フランス料理か何かか。

ココでこんなしみったれた会話をしている客は、多分自分たち以外にいない。

「あんたの言ったスペイン語の黒人さん、あんまり詳しいことは教えてくれなかったよ。

電子マネーとかやってる会社みたいなんだけど。俺はサッパリそういうのには疎い。

俺は毎日、通報を受けたり、ガサ入れしたり、データを作ったり、書類を出したり、そんなことしかしてないから。

金は、いつも現金払いだ。公務員だから、カードはけっこう使えると思うんだけど。

奴らは、何しろ、ヒランプさんの肝いりだとか、上に聞けとか、そっけないんだよ。

どうも奴らのゲームの中じゃ、俺らの方が格下らしいよ」

「もしそんなゲームがあったら、私たちは、格下もクソもないわよ。景気の良い話で羨ましいよ。

あなたにガサ入れされたメキたちは、しょぼくれた顔で帰っていくんでしょうね」

「誰だって、しょぼくれた顔をすることくらいはあるよ。

用事があって1分止めただけなのに、車に駐禁の紙が張ってあったり、勤めていた会社が潰れたりさ。

しょぼくれてるのは、メキだけじゃない」

「このカードについて、知りたいなら、システムエンジニアか何かを呼んだら。

このカードは身分証明書になっているから、持っていかれるのは困るけど、私の前でいじくるのは構わないよ。

呼んだところで、何か分かるかどうかは知らないけど。

私だってこういうのは、サッパリ疎いのよ。何しろ元は不法移民なんだし、あなたみたいな教養はないの」

 

 

ホルヘはノエルを胸元に抱きながら、サルマに連れられて、イアンの家に招かれた。

古いフローリングの床の埃臭いクッションに、ナタリアが座っていた。語学教室でたまに見る、綺麗な姉ちゃん。

メキシコ市民ホールの職員、イアンのアパートは、サルマたちの住処と、大して変わらない。

折り畳み式の簡易テーブルの上にあるのは、ドミノピザと、缶ジュースとビールが数種類。

イアンの言うことに、ホルヘは、肩をすくめた。

アリシアさんと、つきあうのに注意点はあるかって?

メキたっていろんな奴がいるだろ。

アリシアさんとサルマは、同じくらいの年で、どっちも目が飛び出るような美人だけど、出身地も違うし、

腹の中で考えてることだって違うんだよ」

サルマは吹き出した。ホルヘはいつから、こんな軽口が叩けるようになったのか。

食肉工場にいた頃は、ストレスでイラついていただけで、元からこんな男だったんだろうか。

メキシコでは通りを歩く姉ちゃんをナンパしたりして。サルマはメキシコにいた頃のホルヘを知らない。彼が、手が早いことはハッキリしてる。

「イアン、あの語学学校は、良い稼ぎになるの。それとも、ボランティアなのかしら」

「俺は市から補助が出てるって聞いたよ。稼ぎは普通だよ。多分、ホルヘと同じくらい。

どっちも公共事業だし、ペイは悪くない。思いっきり合法だし、最低賃金を下回るってことはない。

俺の勝手なイメージで言うと、俺らのは民主党系で、リオグランデのは共和党系だ。

アメリカ人にとっても、あんまり英語の通じない市民がウロウロしていると、物騒だし。

ケンカやトラブルの元になりやすい。

あんたたちも、半分くらいは授業料を払ってるんだろ。それとも無料なのか」

「イアンって、役所の採用試験に、よく受かったね。

就任早々に、メキをナンパする人なんて、一発でクビじゃん。そんなことないの。

アメリカの役人は、真面目だよ。メキシコ人みたいに、マフィアに乗っ取られたりしてないし」

「こういうのに、婚活しに来てるやつって、いると思うよ。

インターネットに、そういうこと一杯書いてあるし。

メキシコ人の女の子と、仲良くなれますか、とか。イケメンいますか、とか。

友達には、恥ずかしいから言ったことないけど。

アリシアとつきあったら、どうしようかな。もうナンパはしないし。

ナンパしない俺ってどうなのかな。上手くしゃべれるかな。

あそこに来る、メキシコ人や他の外人たちに、生活情報や、英語を教えるのが、下手だと思われたら、クビだよ」

広告を非表示にする