ちきうアネクドート

仕様でどうしても消せないが、リンク先の婚活業者はココとは無関係です。

Rio Grande16

 

ウィルビーとは別に付き合ってない。

彼は私が配られたIDカードに興味をもっているの。

入管が把握していない未知のカードだから。

アドリアナは2人に、そう力説した。

私は、あんたみたいな、男が次々に寄ってくる年齢じゃないのよ。

16歳の娘のいる、旦那に逃げられた、疲れたメキシコ女に過ぎないのよ。

「カードって何なの、私は貰えないの」

アドリアナは、2人にIDカードを見せた。

「欲しかったら、この会社に連絡すれば、貰えると思うけど。でもあなたは不法移民じゃないでしょ、就労ビザでここへ来た。

だから、このカードはいらないんじゃないかしら」

 


アドリアナが連絡すると、ウィルビーは仕事帰りに、ヒョイヒョイと出てきた。ユニクロみたいな適当な格好をした、大きな白人男。

アドリアナの娘の姿が、一目見たかったのだろうか。しかし娘のアリシアの隣には、彼氏候補という、自分と同じくらいの年のオッサンがいた。

「このオッサンが信頼できるかどうかって?

俺が知るかよ。役所のファイルに載ってるかってことなら、

不法移民を使っていたなら、載っている可能性はあるよ。

あんたは、こういうところの役人を飲み食いさせたことなんか、あるか」

「あります。そういことをしないで、不法移民を使うのは不可能です。

食肉工場は、デカくて、臭くて、遠くからでも、目立つ。

毎日、生きたり死んだりしている家畜が入ってくるし、近隣の人の理解も必要です」

「だけど、そういうのは、割に合うのか」

「全然、合いませんよ。

だから僕は工場を畳んで、カントリー牧場で働くことにしたんです。

僕のメキシコ人従業員への気遣いは倒錯しているとか、あんたのお友達に、説教を食らいましたから。

僕は、役所の、どこがどうということは、知らないです。入管とか市役所とか検疫所とか。

相変わらず、メキシコで飲まず食わずの生活をしている人たちは、可哀想とは思いますけど。

時給200ペソだって、向こうに行ったら大金なんだから」

 

「あのウィルビーって入管の人、ママの呼び出しに気軽に応じてくれるってことは、脈がないことは無いよ」

「私が不法移民だから、見張ってるのよ。麻薬の囮捜査みたいなもの。類友で、大勢、捕まえられると思って」

「娘の彼氏をチェックして欲しいとか、あんな理由で出てきてくれるのは、脈があるよ。態度もいい感じだった」

「脈なんて、あったってなくたって同じじゃない。

アリシアもアメリカで上手くいきそうなんだし、

私の人生は、あらかた、終わってる」

「ママはプライドが高いから、アメリカの市民権が欲しいとか言いたくないんでしょ。私とは大違いね。私は、アメリカの市民権が欲しいよ」

「その為にアンソニーと付き合うの」

「アンソニーはいい男よ。少なくともパパみたいな奴じゃない。

ママはパパのどこが好きになったの。調子の良いイケメンのメキにタラシこまれたの」

「あんた、メキシコ人はアメリカで立場弱いんだし、あんまり他人の心を抉るようなことを言わない方が身の為よ。

パパについては、あんたの言う通りよ。

私は若くて、男を見る目がなかったし、

パパとママのいたところは、男が真面目に働いてもあんまり報われる環境じゃなかった。それで、こうなったのよ」

 


「市民ホールの語学教室へ行く?私は、ここが長いし、そんなに困ったことは無いけど」

アドリアナはアリシアより滞在歴が長く、自然に英語が身についた。メキシコにいた時分、幼い娘と一緒に英語を勉強したこともある。いつか母娘2人でアメリカへ行こうと。

「そこで働いてる、彼氏を紹介したいの。

アドリアナは、男を見る目がシビアだから、チェックして欲しい。アドリアナは知っているでしょう。

私は昔から、アロハシャツや、泥棒に引っかかるようなマヌケなメキだから」

「泥棒には、無理やり引っ張られていったんじゃない。

奴がコソ泥したお金を、盗んでやったのは、いい気味だけど。

あのナタリアの盗んだ札束は、汚いお金とはいえ、かなり助かったの。

娘のアリシアがアメリカで働けることになったの。

だから、頼みごとがあるなら、何でも言っていいよ。

ナタリアはアリシアの命の恩人の1人よ」

「私は、今困ったことはないから、とりあえずそれだけでいい。

語学教室、変なナンパ男とかいるけどね。それって私の彼氏のことなんだけど」

「アメリカ男なの?」

「そうよ。スペイン語はまあまあ上手い」

アリシアもアメリカ男と付き合うっていうのよ。

そんなにアメリカ人は、良い男が多いのかしら。うちの旦那も逃げるし。メキとしては、何だかガッカリね」

「メキには女を捨てて逃げる男が奴が多いの?アドリアナもそうなの?

でも同じ学校に来てる、ホルヘって人はいい男みたい。奥さんと子供のことを気に掛けてるし、真面目に働いてる」

「ナタリアはパパとは音信不通なの?」

「さあ、気が付いたらいなかったし。どこの誰だか知らないオッサンになってるよ。どこか知らないところで、マフィアに首輪を掛けられて、死んでいるかも」

「どいつもこいつも、頼りにならないわね。全く」

アドアナもナタリアのママも、男に逃げられた。女性で出稼ぎしてるのは、だいたいそういう理由だ。

 

 

ウェットバックへの威嚇射撃は、取り止めになった。元々、ヒランプのパフォーマンスだった。

沿岸で、壁を見た時点で渡航意欲の萎えるメキシコ人は多かった。

どうせリオグランデのアメリカ側には、ヒランプの建てた壁があって、いくつか扉があり、ものものしい警備があって、そこからしか出入りできないようになっていた。

国境沿いに壁を壁を作る例は珍しくない、万里の長城からベルリンの壁まで。ヒランプは始皇帝にでもなるつもりか。メキシコの匈奴たち。

連日押しかけるウェットバックの群れの迷惑度は、景色が悪いとか川のせせらぎが聞こえないとか、そういうレベルを超えていたから、壁への、住人の反対はそんなになかった。

そしてホルヘとハックマンは仕事がなくなり、また職業斡旋所へ行った。

 

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