ちきうアネクドート

仕様でどうしても消せないが、リンク先の婚活業者はココとは無関係です。

オアシスは少ない2


この辺で物取りが出たと、御殿の住人が警察へ通報した。

周辺住人は、一通り聞き込みの対象になった。

「うちに警察が来たわ。玄関に塩まかなきゃ」

「セキュリティとか心配じゃないですか。私だって、警察の野蛮さには辟易してるけど」
「セキュリティ。そんなものは、異教徒の住む不浄な地にしかないものよ。ここで人の物を盗んだり、他人に危害を加える人はいない」
「でも、今回、そういう人がいた」

「あの人、持ち過ぎなのよ。アラーが持って行かれたのかもしれないわ。戒めの為に」

「何が取られたの」

「金で出来た仏像ですって」

彼女たちは、クススクスと笑い合った。

彼はイスラム教徒ではないのか。もしくは豪商の客人のお土産か何かか。

いずれにしても、いかにもアラーがこの地から、抹消しそうな物体だ。

 

 


シリアでは、インターネットで海外の文物を消費することは、許容されていた。

グーグル翻訳がそれなりの進歩を見せていた。

「清純派アイドル、お泊り恋愛が発覚」

アジアの芸能記事だった。白いワンピースに、挑発的に見えるような表情の写真が貼り付けてあった。

イスラム圏では、ショービジネスや肌の露出が禁じられているから、そういうゴシップが好きなら、他国のものを見るしかない。

ゴシップの好きな人は、世界共通で大勢いた。

普段、禁じられていればいるほど、興味が湧く。

主婦の人が良く使うと言われている掲示板は、卑語で埋まっていた。

公衆便所。
キモオタご用達、オナニー用ポスター。
汚辱にまみれて死ね。

元は生活情報交換の為と称して作った掲示板だった。

しかし、利用者は、インターネットの広場を、好きに使う自由があった。

それで、日常情報に混じってゴシップが躍る、特殊な空間が形成された。

 

マリクは、学校の帰りに、ある寡婦の家の前を通った。家というより掘立小屋だった。

そこへ座り込んで、寡婦は俯いて、喜捨の為の器を、申し訳なさそうに、前に置いていた。イスラム圏では、女性は働くことができない。

ナワルのことは、テレビで何度も見た。

数年前の地震で、山間部の雪崩があり、ナワルは雪崩に巻き込まれて、軍の救援部隊のヘリで救出された。

レンジャー部隊の青年が、泥だらけのナワルを抱きかかえて救出する場面には、人々の目を惹いた。

男のマリクですら気になった。

ここでは、ヘリコプターなどは軍用機以外で、ほとんど見ることが無いからかもしれないし、

アラブの人たちは、自分たちのテクノロジーが人を助けるシーンなんか、ほとんど見たことが無かった。そんなものは、アラブには無い。

ヘリは、アメリカのものか、ロシアのものか。

その手の映像が多いハリウッド映画など、あまり大っぴらに公開されていない。

その救援画像は、アラビア半島には珍しいシリア地震の象徴として、世界に広まった。

レンジャーの男の腕に救助されたナワルは、近所の主婦連中などに、羨ましがられていた。

あのレンジャー部隊の人は、誰とか、どこの部隊にいるとか、どうしたら会いに行けるとか、彼女たちが、そういう噂話をしているのを、マリクは聞いた。

ナワルは、ベールをつけて外出しても、いつも後ろ指を指された。

それでナワルは、世間体が悪くなり、旦那への不貞などとなじられ、家を追い出され、掘立小屋で暮らしていた。

 

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