ハマは、ここにきてから、ロケットのようなものを西の空に見たことがある。東の空の下の方から、西の方へ尾を引いて飛んで行った。
流れ星じゃないし、珍しい光景だった。
その頃から、半島情勢は、また騒がしくなり始めた。
ハマは子供の頃から墓堀人の夢を見た。
冷たく光る大きなシャベルが、ひたすらやわらかい土を掘っていく。
墓堀人が埋めている遺体は、ケースバイケースだ。
ハマ本人のこともあれば、親しい家族や友達のこともあった。
そして、大量の冷や汗をかいて目を覚ます。
ハマは眠れない夜に、何故こんなところに入れられるハメになったのか、枕を抱えて煩悶した。
誰だって戦争には行きたくない。
日本のシールズという平和活動グループが、海外でほとんど知られていないのは幸いだった。
当時の政権は、戦争キチガイという噂が流れていて、アメリカ兵の欠員の代わりに、日本人を片っ端から狩りだして戦地へ送るとか言われていた。
あくまで左翼のあいだではだけど。彼は当時、左翼だった。
でもその運動は、当時は知らなかったけれど、中国が資金援助をしている、利敵行為のようなものとさていた。
そうなると、何が何だか分からない。
警察かどこかが、ブラックリストを回し、デモ参加者の有名企業への就職は絶望的になった。
それで、有名大学の新卒のブランドを捨てて、というか、捨てざるを得ず、つまりお仕着せの制服を着ていそいそと学校へ通っていた前半生をドブに捨てて、
文盲の外国人でもできるような安い派遣で食いつないでいたが、
そういう階級はワープアと呼ばれ、かろうじて乞食の一歩上と言う感じだった。
気が付いたら、日本より就業機会の多い中国大陸くんだりまで流れていた。
タローが、この遊びの許可にあたって、祖父と取り決めたのは、2点しかない。
1、人の目など危ないところは狙わない。
2、本物のライフルは使わない(彼はそれを警備員の駐在所から見つけ出してきて、大目玉をくらったことがある)。
「あいつに当てたら10点だな」
「タローはずるいじゃん。自分ばっかり当てるんだから」
「じゃあこうしよう、彼に頭を撫でて貰ったら10点にしよう」
タローは自分より大人に気に入られるのが上手いシンゾーをからかった。
シンゾーは侮辱されているような気がして、尚更むくれた。タローだって内心、チェっと思っているのだが。シンゾーばかり大人に好かれてズルい。
彼らは遊びで獲得した点数に応じて、持ち帰ったお菓子や、BB弾を交換していた。
あとは、気になる女の子を見つけたときに、どっちが先に話しかけるかとか、悪いことをしたときに、怖い祖父に、どっちが言い出すかを、決めるのに使う。
「まあいいじゃん、絶対何か貰えるし、今日のお菓子もおいしそうじゃん」
ミルフィーユのようなものが、双眼鏡で見る、テーブルの皿の上に載っている。花柄のティーカップの紅茶から立ち上る湯気の香りはここまで届かない。
タローは物影に隠れて、屋敷に来た人間を片っ端から撃っていた。
相手がどういう案件を持ってきた、どういう人なのか、分からないが、
出て行って自己紹介をすると、名刺を貰ったりして、2人でそれを集めていた。
ポケモンみたいにトレーディングカードにして遊ぶとか、使い道があったし、それから、祖父にそれを見せると、
「こいつは宴会の席で某のハゲをからかって、殺されそうになったことがある」とか「こいつは米軍基地で御用聞きをやっていた。チンパンジーの物まねが上手い」とか大人の話が聞けた。
しばらくすると、祖父ら2人の話は、「Aをああする」とか「Bをこうする」とか子供にはわからない話へと展開していって、2人はソファーで寝てしまう。
岸は顔が怖いしヤクザだと思われていたので、この2人を来賓の接待に利用していた。
「こいつはやんちゃで手におえないんですよ。
でも彼らの将来を思うと心が痛みますよ。
お宅のお子さんはいくつですか。
倅たちの為にも、和平を達成しましょう」とか、何とか。
しかしアコギな仕事をしながら身内を大事にする習性を持つ、いかにもなマフィアと思われただけで、本人が思っているほどの効果がなかった。