ちきうアネクドート

仕様でどうしても消せないが、リンク先の婚活業者はココとは無関係です。

俺のペニンシュラ6


祖父はすぐに飛んできたし、2人も逃げたり隠れたりしなかった。

「この子たちは確かにやんちゃはやんちゃだが、ワシはここまでの不作法は許しちゃおらなかった。これ、タローかね、シンゾーかね。

あやまりなさい。頭をテーブルにつけて」

「あやまらなくていい理由は、チンチンピンピンが知ってるさ」

「俺を変な名前で呼ぶのを止めろ」

チンピンは渡されたタオルで体を拭きながら、花を脇へどかした。

タローもシンゾーも、彼からケリを入れられて黙って退散したなんて、人に言いたくない。2人の執事がソファの周りの花瓶の破片を集めて、辺りの散らかったものを片付けてた。

「それにしても、上から花瓶が降ってくるっていうのは、サプライズですね。日本側のお気持ちがよく表れています」

シーは破片の流れ弾に当たった顔を撫でていた。

「コレ、お前らは、祖国を国難に陥れるつもりか」

「国難」

2人は、それって何なの、という目で岸を見た。

 

 

「タローが話しかけたら、奴は僕にケリを入れて来たんだ。でも僕は何もできなかったんです」

「だから、男なら、やられたら、やりかえさなきゃだよね?」

岸は考え込んだ。

傍若無人なシーへの対応は、岸も考えあぐねていた。

シーは中国の韓国大使だ。

彼らが求めるのは、何らかの外交や工作に携わる日本人の、朝鮮半島からの完全撤退。それをアメリカにも求めているなら、アメリカとも協力の余地があるだろう。

シンゾーは、祖父がいつものように、なんだ、だらしない、男なら一発くらいやり返せ、などと言わないので、不思議な顔をして岸を見ていた。

たまにはグっとこらえて、やり返さないのも大人の対応だ、か?

タローとシンゾーの父は、用事でアメリカへ行っていた。韓国の学校に行かせるのが不安で、家庭教師をつけているが、2人を教育するのは岸しかいない。

岸は韓国の大統領府へ連絡を入れた。彼の顔は広い。

 

 

 

 

「ハマさん、あんた、何かスキがあったら、ここから逃げることを考えたほうが良い」

「何でですか」

ハマと中川は、人民解放軍の通信施設で、日本文書の翻訳をこなしていた。

中川は自分の文書をヒラヒラさせた。

「こっちの文書にはこんなことが書いてあるんだ。

人民解放軍の、この部隊は、韓国への襲撃へ使う」

「韓国を襲撃?」

「中国は、韓国から日米を、追い出す、追い出さないでモメてる」

「中川さんは、どうするんですか」
「ワシはいいよ。ワシはずっと逃げ回ってきたから。持病の坐骨神経痛も最近、具合が良くない。そろそろ、年貢の収めどころだ」

中川の話はこうだった。

彼は日本の戦前の徴兵で中国戦線に送られたが、南京周辺には戦線というものが存在しなかった。分かりやすい、軍人と軍人の対決はほどんと存在しなかった。

中国兵は、二束三文で雇われた、貧しい傭兵が多かった。

彼らは民間人に交じり、ゲリラ戦術を仕掛けて、戦意を削ぎ、日本兵は消耗した。今でいう、アルカイダやベトコンの戦略だった。

日本軍は消耗して、民間人と戦闘員の区別をせず、見つけ次第殲滅していく方針に、切り替えた。

中川は、思いがけない、その凶悪行為にうんざりし、恐怖し、怖気づいて逃げ出した。ということだ。

中川は、自分の良心を納得させる為、中国の民衆へ襲撃の予定などを教えて、一緒に逃げた。

一緒に逃げたのは、中国人と混ざっていた方が、脱走が見つかりにくかったからだ。

軍服を民家の裏のゴミ捨て場に捨て、中国人からもらった私服に着替えた。

それ以来、日本に帰らず、ずっとこの地へ住んでいた。ひとところへ身を落ち着けず、当時の華南から、今は東北地方へ来ている。それが中川の人生だった。

「ワシは中国でそれなりの人生を送ってきた。後悔してない。あんたらにとっては、国の恥かもしれないけど」
「恥じゃないと思いますよ」
「戦争の為に命を投げ出さなかった兵隊なんていないと、日本の学校では教えるだろう」
「徴兵検査の日に、血圧を爆上げしようと思って、醤油を飲むのが流行ったとか、聞きますよ。教科書には載っていないですけど」
「そういうのは、一部の人には流行っていたよ。ワシはやらなかったけど。量を間違えると、死ぬからね。
戦争で死ぬ前に、醤油を飲んで死ぬんだ。死んでも死にきれない。何処で読んだ?」
「図書館か何かで見た、当時の古新聞に書いてあったんです。社会問題みたいな欄に」