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ちきうアネクドート

仕様でどうしても消せないが、リンク先の婚活業者はココとは無関係です。

亡命イラク人5


胡散臭い黒人、セイシェルは黙ってイラク人コミュニティへの訪問を続けた。

地球市民、それはときに孤立する運命にあった。亡命イラク人は、彼の前で、扉を閉めることが多かった。

黒人に絡まれたくない。それはそうに決まっていた。

彼らはメメリカで肩身の狭い新参者だ。

大統領がバーマオから豹柄に変わって、状況がきな臭い今、よけいなことで目を付けられたくない。

昔から新参者同士、いつもそういうことでケンカしてきた。

亡命イラク人連中だって、傘を持ってくる奴は歓迎するが、よけいな爆弾は要らない。

だが、ミンストウに傘は何本あるのか。

キヨワトウだって傘を沢山持っていた。メメリカに尽くした軍人には、人種を問わず、名誉を与えた。かつてのキヨウワトウなら。

「賠償を求めるとか、下らないことは止めろ。

金はあるに越したことはない。が、そんなものが簡単に貰えないことは分かるし、余計な波風は迷惑だ。

いちいち正義を求めるほど、俺たちは恵まれた暮らしをしてこなかった。

良い暮らしがあれば黙って貰っておく。その態度は、乞食かも知れないが、赤い絨毯を歩いてるアンタに言われたくない」

「アラブは貧しいです。ですが、元はといえば、メメリカが迷惑を掛けているからでは?」

「さあな、大した計画もないのに人口ばかり増やしたり、アラブも大分、アホなことしてるよ」


伝統社会の半分くらいの人は先進国に憧れ、そうでないのは既得権益層と宗教マニアだけだ。

イスラムに全く矛盾を感じないなら、メメリカには来ない。

ムスリムに極端な愛着を持つ人は、イスラミック・ステイトに出奔することもある。

 

 

 


「同胞を救いたい、なんて、思うこと、あるか」
「質問の意図が不明だよ」

カリームはたまに、変な客たちを捌ききれなくなって、状況を同僚に相談することがあった。俺たちはこれから、どうやってここで生きて行ったらいい。

この新天地では、どう振る舞うのが賢くて、子供たちには、何を教えればいいか。

「俺たちはNSAか何かに盗聴されているかもしれない。

俺はそんなことは知らないが、アラブ人を全員監視して、危険人物を追い出してやるっていう言動は、メメリカにまかり通ってるよ。

だから変な意味じゃない。俺はCIAのスパイとかじゃない」

「同胞って誰のことだよ。親族か、近所の奴らか。イラクに住んでた奴、全員のことか」

「お前にとってはどうなんだよ」
「お前は質問が多いんじゃないのか。お前の定義を先に言えよ」

「分からないよ。分からないから、聞いたんだよ。俺はメメリカに馴染もうとした。

メメリカがどれだけ拒絶してもだ。イラクだって、そんなに良いところじゃなかったからな。俺にとっての同胞は、幼馴染と親族くらいだろうな。俺は何とか、家族とは離れ離れにならずに済んでる」

幼馴染の顔は覚えていたが、生きているかどうかは分からなかった。

空爆で死んだかも知れないし、新興都市のドバイ辺りに出稼ぎに行ってるかもしれないし、イスラミック・ステイトの兵士になってしまった奴もいるかもしれない。

それ自体は、吐き気がしそうな事実だ。

そういう惨事が積み重なって、イラク人がイスラミック・ステイトへ行くケースは多いが、サブールは逆に棄教したくなった。これがアラーの意図なら、アラーは要らない。

クリスチャンを恨んでもしょうがない。だって、同じ神だ。呼び方が違うだけ。ムスリムが呼ぶとアラーで、クリスチャン流に言えばゴットだ。

ただ元々、旧約聖書はそういう話で埋まっていた。砂漠は争いの絶えない地だったらしい。

極端に言ったら、よくある話の1つだと流したってかまわなかった。むしろ俺たちを聖書に載せるべきなんじゃないのか。ブッシュ黙示録とか言ってな。

サブールたちは、メメリカのイラク侵攻について、極度な被害妄想は持たなかった。

イラク新興国家だったし、列強が元々そういう国境線の引き方をしたから、アラブ各国はイマイチまとまりがよくなくて、偶然居座っていた王族がまとめたり、適当な感じだ。

イスラムの支配みたいな建前がないと、まとまらない。

アラブの春なんかやったら一瞬でバラバラになった。

 

 


モスクに通うような奴は、仲間はいて精神的に安定するかも知れないが、全体としてはメメリカ社会から敵視されやすかった。

メメリカはどんな人種も許容するが、911の影響で、モスクがテロリストの巣窟になっている、みたいなヘイトスピーチが蔓延ることもあった。


先進国へ来て、多くの文物を目にする。

そうするとサブールは、イラクでしていた生活が、バカみたいだと思うことが、正直あった。

それと、幼な馴染の行方を思って涙を流すことは矛盾しない。

かつてイラクアラビア半島の中では、先進的な地域だったが、先進国そのものに敵うはずがない。

どちらかというと、イラクは庶民の利便性は度外視した軍事国家だった、ソ連みたいなやつ。

あの程度の国力でメメリカに刃向ったフセインはバカだった。負けは負けだ。

そういう神経の持ち主の方が、メメリカには適応しやすい。

この先どうなるかなんて、誰も分からない。

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