ちきうアネクドート

仕様でどうしても消せないが、リンク先の婚活業者はココとは無関係です。

インダストリアル・ドリーム2

 

「理科のテスト、見せなさい」

ハア?何で見せないといけないんだよ、ストーカーやめろ。ババア、バーカ。

と言う程、目の前の女はヌルくなかった。

何をされるか分からないし、この女に逆らったが最後、世界が崩壊しそうだ。

今日のテストの点は、82点だ。

コレはヤバイかヤバクないかギリギリだ。

加藤のママンは何のテストがいつあるか、担任に電話して、いちいち聞くらしい。

ママンは秘密の彼女につけられたあだ名だ。加藤には、ママンに秘密で付き合っている彼女がいた。

加藤の母親が、あまりにも怖かったから。

そのあと付き合っている彼女なのかどうかネチネチ問い詰められた為、学友で勉強を教えてもらっていて、そうするとテストの点が上がるとか適当なことを吹いて、やっとママンに引き下がって貰った。

ここではいつも、壁に耳あり、障子に目ありだ。誰にもバレないところで会うしかない。

 

 

82点は、82点はアウトだった。

加藤ママは、父親の読んでいた夕刊を取り上げて床に敷き、その上に食事を全部ぶちまけた。

「あんたは今日、ここで食べなさい」

新聞を取り上げられた加藤父の顔にはこう書いてあった。

俺の読み物を取りやがって、何だよ。だけど、俺は教育のことなんか何も知らないし、知りたくもない。

だいたいこの紙にも、大したことは書いて無いし、誰が汚職したとか、空の向こうで誰かが条約を結んだとか、アフリカの内戦で誰かが死んだ。

加藤父はメシが不味くなったので席を立った。

加藤は恨みがましい目で父の背中を追った。ハア、俺も席を立ちたいんだけど。

だいたい、床にぶちまかれたメシは、もう人の食うメシじゃないだろ。

新聞を取り上げられたくらいで席立ってるんじゃねーよ。

 

 

 

かつてのアメリカではケインズ政策をして、政府が人々に仕事を与えるのが当たり前だった。アメリカの後に続く開発独裁のアジアの四小龍など。

そういうフェーズだったということに尽きた。鉄鋼が足りない、道路が足りない。そういう時代だった。

最早、道路や鉄道は一通り敷かれ、これ以上作っても赤字が嵩んだ。

そのうち共産主義の崩壊で、失業者が世界に溢れ、工場主が安い労働力を求めて海外へ逃亡し、地元は空洞化した。

若い人々は一家の大黒柱になり得ず、流民化した。

 


「リストラ担当を、やらないか」

マツモトは、リストラされかかっていた。

で、このリストラは俺のリストラじゃなくて、従業員のリストラらしい。

提示された給料は、5倍だ。

逆に怖い、よほど嫌な役割なんだろう。

リストラした相手に路上で刺されたらどうしよう。

最後に用済みになった自分がクビを切られるオチもありそうだ。だけど今、切られるよりマシないか。

少しは生存確率が上がるんだし、現時点の貯金だけでは、家族が生存可能かどうか分からない。提示された給料は5倍だ。

「彼らのクビを切った時にはすでに遅かったんだよ。日本に市場開放の圧力を掛けてみたりしたんだが、無駄だった。

わが社は、人件費は高いし、海外で売れないし、何が原因なのか、サッパリ不明だ。ありていに言って、たるんでいるってことかな。日本の小僧だって、よくそういうことを言うだろう」

「リストラで恨まれないコツは何ですか」

「自分は物影に隠れて他人にやらせること、なんつって、逆に顔を出すことだよ。

誰がやってるのか分からないと思われたら荒れるから」

オイオイ、ただのスケープ・ゴードじゃないか。顔を出すって、お前の顔でなくて、俺の顔を出すんだろう。お前は物陰に隠れたままだろう。

「誰がやっても荒れることには違いないんで、社外の人にやって貰ったら、どうですか」

松本には、チェンソー・アルを名乗る人物が、本物かどうか分からなかった。

従業員のクビを切るチェーンソーだ。

アル自体、社外の人という噂もあった。マツモトは現場で忙しいので、社内ゴシップに詳しくなかった。

工業の最盛期を過ぎた先進国は大抵、リストラで揉めていた。

「それとも、海外工場への転勤がいいか」

「勘弁して下さいよ。原始人と渡り合うの、怖いですよ」

「お前は、怖い怖いオバケか」

リストラされて逆上する労働者と、途上国の魑魅魍魎、どちらが怖いか不明だった。

赴任先の新興国の政府は汚職まみれの噂で、ルールは不透明だ。一寸先が闇だし、身辺警備費用とか、経費なのだろうか。

「リストラした人に恨まれたくないなら、お前が会社でも作ったらどうだよ。5倍にした給料のポケットマネーで適当に買収しろよ」

「冗談でしょう、経費で落ちますよ」

「従業員らの言うことをきいていたら、金はいくらあっても足りないんだよ。お前は子供のころに、カツアゲに合っていたタイプか」