ちきうアネクドート

仕様でどうしても消せないが、リンク先の婚活業者はココとは無関係です。

インダストリアル・ドリーム5


マツモトは今日、3回は殴られた。けっこうキツイは、コレ。

窓から飛び降りようとした人を止めたこともあった。

仕方ない、終身雇用の会社で、唐突にリストラはビビル。

コレは続かないんじゃないのか、

アルファ汽車なんて、中国人の会社は、俺には関係ネーヨ。

 

中国人の会社ってことはないだろ、CEOが中国人なだけで、従業員のほとんどは、アメリカの人たちだ。

だが、名前は中国じゃないか。

彼の会社は、気が付いたらいろいろ入れ替わっていた。

彼が就職したころはアメリカのビック3だった。

 

それにしても、体の節々が痛むのはやってられない。

今月、5倍の給料を貰って、1か月で止めだ。あとは、白人のオッサンにやってもらおう。

熊みたいな白人のオッサンが相手なら、リストラされるほうもお利口になるだろう。

だけど、お利口って何だよ。

俺みたいに世界経済の流れに、粛々と従うってことか。

「帰り道に酔っ払いにでも絡まれたの?」

現状、学校とサブカルチャーにしか興味のない娘が、びっくりして彼を見た。

今日は顔を殴られたが、俺は、よほどヤバイ顔をしているんだろうか。

「ハハハ、だけど今月は給料が5倍だ」

「お父さんの会社は、プロレスの興行でも手を出したの?」

「だからリストラ屋やってるって言っただろ」

「本当は自分がリストラされて、路上で殴られ屋やってるんじゃないの」

「残念ながら、違うよ」

 

 

 

欧州は組合活動を真剣にしたし、アメリカは選挙民の優遇に熱心だ。

だから、こんな天国、来たくないと思わない人はいない。

欧米は、つねに泥水を啜る途上国の人々の憧れの的になり、資本家が従業員を安く使いたい下心と一致して、移民が増えて行った。

「先進国の工員は、甘えてますよ」

「ハア、賃金格差の違いでしょう」

何か耄碌してきたか、政府と癒着の噂も多い。

癒着しなければ事が上手く進まないので、仕方がないが。

「甘えなんて、どうでも良いでしょう。企業は労働者に仕事をしてもらえば、内心なんてどうでも良いです。詰まらない宗教や政治に手を出すのは、お止めになった方が良い」

「途上国の工員は明らかに質が良いよ。金に困ってるから、いちいち労働運動なんか起こしてこない。文句があるならクビだ、次はいくらでもいる」

ここの役員は、腰巾着が多い。社長の好みで選ぶからだ、と新入り役員の松本は思った。

リストラ担当が嫌で止めようと思っていたら、役員らしきものの末席に入れられてしまった。

いくらなんでもこれはないは、どうなってんだ。

労働者の声を知っている、とかいう名目らしい。

白人も意外と腰巾着はやる、っていうか、CEOが中国人だと、やる気が落ちるのか、何なんだろう。

「海外で工場を作るのは、いろいろ面倒じゃないですか。

現地の役人や政治家の指先ひとつで追い出されるリスクがあるし」

だから、ここが海外の工場なんだろ。指先ひとつで追い出されるリスクがある、か。

 

 

 

チェンを通りがかりに女子工員の落とした頭巾を拾ってあげた。

彼女は、ありがとう、と笑った。俺はきっと次の日から、この子が気になって仕方なくなるんだろう。

コレはチャオのパタンだろ。

告白したって、玉砕して死にたくなる。

だけど、玉砕するとは限らないだろ。

それに結局、チャオの自殺原因は、誰も知らないんじゃないか。

「お前は図太いから、女に振られたくらいじゃ、死なないよ」

「賭ける?」

「何を?命を?」

「命なんか賭けても無駄だろ。この世界では、死んでも次がいるんだよ。

だいたい農村やスラムへ行けば、死体なんかたくさんあるよ。希少価値がない」

チェンは作業が終わったあと、彼女のあとを付けた。

しばらくストーカーしたところで、相手は振り向いた。

「どうして私のあとをつけるの」

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