ちきうアネクドート

仕様でどうしても消せないが、リンク先の婚活業者はココとは無関係です。

indian anonymous1

 

「お腹すいたよ」

シーハは誰に話しかけるでもなく、つぶやいた。腹が減り過ぎて、黙っていられない。

「それは誰でも同じなんだ。だがアンタは、この先にある売春宿にでも行ってくれば、食うことは出来るよ」

シーハに答えた隣のオッサンは年齢不詳だ。ここの人たちは、誰もが年齢不詳だ

垢らだけで、観光客がすれ違ったら、一目散に逃げていくような汚い奴が集まったスラムだ。老いも若きも、貧民の群れに過ぎない。

「そういうのが嫌だから、田舎から逃げたのよ。あんたもケツ売る?」

シーハが軽口を叩いたオッサンは、こう見えてもシーハの保護者だった。

以前、他のオッサンに襲われそうになったのを、守ってくれた。ロクでなしばかり見てきて、親にすら売られたシーハには、それがどうしてか分からない。

彼には彼なりの辛い思い出があるのかもしれない。娘が攫われたり、レイプされて側溝に捨てられたり。

いちいち聞いたことは無いが、ここには、どんな人間がいても不思議じゃない。だからシーハはいつも、彼の側に座る。

スラムにも汚れたものと綺麗なものがある。誰かが少しでも優しい人のそばに座るのは合理的だ。

 

 

「オッサン、私のお父さんかお兄さんに、なってくれない。お爺さんでもいいの」

「爺さんかよ」

隣のオッサンは、シーハに名前を明かさなかった。彼の髪はまだ黒い。薄汚れて伸び言っているのは他の人と変わらなかった。

彼は誰かに追われているのだろうか。何か悪いことをした。

だが、シーハも聞かなかったから、隠しているでもないかもしれない。何もかもが、不明だ。

「俺がアンタの父さんになると、何かいい事があるのか。俺は肉親にだって、1つしかないパンを分けたりしない」

「家族は、いないよりいた方が良いと思わない?オッサンはこのスラムの中では、文明人よ」

「文明人って何だよ。お前は文明人なのか」

ありがちなパタンで、シーハは子供の頃に、奴隷に売られた口だった。

小作人は儲からない、衣食住があるだけの奴隷だ。運が悪いと地主にレイプされたり。運が良ければ、給仕などの、ラクな仕事にランクアップできた。

シーハは、地主のドラ息子が色目で見てくることに身を危険を感じたせいもあって、スキを見て逃げて、このジャララバードのスラムへ潜伏した。

人から小作人を買うような地主は、小作人の逃亡防止に警備員を雇ったりするほど金がない。大体、その商売は儲からないから、人件費が用意できず、奴隷を使うしかない。そういう駄サイクルだ。

奴隷が文盲で行き場のないことに胡坐をかいた、適当な制度だった。

そこからシーハが逃げるのは不可能じゃなかった。ソ連ラーゲリ(強制収容所)みたいのじゃない。

もちろん、生まれついての奴隷の脳みそには鎖がついてるから、そういう発想は取りにくい。

シーハは何故か、生まれついての奴隷じゃなかった。


「俺は、どっかの怖いオジサンが、お前を探してるっていう噂を聞いたぜ。俺は優しいから、黙っててやったけどな。俺に恩義を感じないか」

「そんなの、嘘臭いよ」

ソイツは、よほどの執着心の持ち主だ。私、あの地主に、そこまで気に入られてたか。

だって、もし誰かが、マフィアに人探しを頼んだら、無駄金が飛ぶ。

あの薄汚い地主のドラ息子。そこまで深い意味のある色目じゃなかったよ、アレは。

シーハは薄汚い格好をしているから、このスラムで、ものすごく目を引くとかそういうことは無いし、だいたい鏡なんか見る機会もなかった。

広告を非表示にする