ちきうアネクドート

仕様でどうしても消せないが、リンク先の婚活業者はココとは無関係です。

indian anonymous2

 

どの地域にも土地ブームは定期的に来るが、人口減少の続く日本ではあまり流行っていない。1980年代のバブル期の本でも探せば、あるだろう。濡れ手で粟で儲けた金を、ディスコでバラ撒いたとか。

ただ、スッてそのまま退場した人は黙っているから、成功率は不明だ。都心の一等地を追い出されたり。

虎の子の資産を、土地にぶっこむこと。

そういう新しいブームは、流行り始めると流行した。初めは恐る恐るつま先を水を付けるように、次第にどんど河の深いところへ入って行くように。

かつて世界中のバブルが、そうやって素人を巻き込んで大きくなった。バブルはいつか弾けるのは初めからわかってるから、札束を掴む勘所と、あとは逃げ足の速さだ。のるかそるか。

ボームは水に、つま先を付けてみた。砲弾、大してもってないんだけど。

以前、汚職防止と称して1000ルピー札が急に無効になったり(本当の目的は不明だった)、インド2の通貨政策は盤石とは言えない。そこへ行くと、地面なら無効化できない。

と多くの人は考えたが、それも不明だとボームは思った。

ある日突然、大量のホームレスに占拠される、テロが起きる。土地だって怖い、リスクの無い投資は無い。ボームは勢いよく目の前のドアを開けた。

不動産の店はエイ、勘で入ってやれ。

「この地区は割安だ。恐らく値上がりする。政府が開発計画を、いきなり撤回しない限りは。

俺の見たところ7割くらいは安全だと思うが、デリーにも鉄道が通ってるから、元々悪い地区とは思えない」

「あんた、どこ出」

「ヒンディラバードのB地区だよ」

「アレで有名なやつだな」

そう、アレで有名だ。これ以上の底辺はないっていうカーストが寄り集まるドヤみたいなところ。

だが、ボームが出身地をあかしても、これといった不利益が出ない社会に、インド2はなってきた。

主人はボームにミルクティーを勧めた。

「何か面白いジョークでも思いついたのか」

カーストジョークもクソもあるものか。

だが、スラムをアレなど言えば、親がすっ飛んできて頭を殴るような偽善社会もあるが、インド2では、しない。ココはこの主人がママから継いだ店なのか。

ボームは周囲を見渡した。ピカピカではないが、小綺麗なオフィスだ。主人の真面目な人柄が伺えた。

座っているソファは、ノミのいそうな中古じゃない。客に金を掛ける気遣いのある商売屋だ。

ジョークは用意できない。俺は、お客さんと一緒に、自由を噛みしめたいだけだよ。俺だってバンジャララ地区のC地区だから」

ハンジャララ地区、彼の脳内検索に引っ掛からなかった。ボームはミルクティーを飲んだ。

「俺はあんまりそういうことに詳しくない。あんたは商売人だ。いろいろなことに詳しい」

「そう、詳しくなったら商売ができる。いい事だよ。

1世紀前は違った。親の商売が未来永劫、子供の商売だった。

俺の親父はクーリーやリキシャー引きなんかじゃ、ないけどね。

俺の親父は中古車のカー・ディーラーだ。俺も親父も、努力家だから」

こんなの、努力することが当たり前な、例えば日本なら、むしろ陳腐な努力自慢だ。

だが、カースト制度の鉄鎖から抜け出すのが遅れたここでは、自分が這い上がったと言い合うことは、同志感情を生んだ。

つまり俺たちは無気力な制度の犠牲者じゃないし、汚職に群がる汚い政治屋でもない、と。そして2人は握手して契約が成った。

 

 


土縁、血縁の呪い。生まれてから死ぬまで取れない足枷だった。誰かがそれを外すことが出来ると気が付いた。少しずつ、少しずつ。

始めは外資の力を借りた。

2ケタの九九で有名なインド2は、ITエンジニアを大量輩出し、インドに利便性を高めるインフラを敷き、またエンジニアとしてアメリカに移民した人の仕送りがインドへ還元した。

誰も想像しなかった未来だ。人々は、ずっと泥沼で喘ぐと思っていた。カースト制度は、諦めの制度だ。生まれてから死ぬまで、何の変化も望めない。

インド2を長いイギリスの軛から独立させたマハトマ・ガンジーですら、イギリスへ留学したエリート法律家で、カースト制度を正当化していた。

20世紀末までカースト制度の残ったインド2で、「土地を買う」というのは特別な意味を持っていた。

純粋に自分の力で空間を移動し、ヨソの区画を手に入れること。

そういう行為自体に、執着を見せる人が多い。成り上がった田舎者が、趣味の悪い金ピカの豪邸やポルシェを買う以上の意味合いがあった。

ボームだってそういう手合いだった。俺はもう自由だ、足枷は付いていない。自分の脚で、どこへも行けるし、祖国インド、ここは俺のフィールドだ。

1990年代頃までソ連の影響下で共産主義的な政策を取っていたインド2は、

海外の土地バブルを横目に、土地取引の自由化に踏み切った。

政府の考えはこうだろう、ただでさえ貧しい財政に過剰な人口、土地バブルの恩恵をこうむれるものならこうむりたい、と。

人口増加は、土地バブル到来のサインだ。

いつまでも腐敗勢力が富を独占して浪費し、スラムでゴチャゴチャしていても未来がない。

 

 

 

インド2の政治家は、地元の議会で、気軽に汚職話をしていた。

「次の開発計画、ホンジャララ地区に決まったから」
「恩に着ます。すぐにご自宅に何か届けさせます」
「気を遣わなくても良いよ」

気を遣わなくて、いいわけがないだろ。

このイタチと呼ばれる汚職政治家が、正直なことを言った試しがない。

下っ端としては、気を遣わないと一寸先は闇だった。面倒くさい相手だ。

彼の恩に何も返さなければ、後ろから撃たれて側溝に捨てられるまではいかなくても、一族もろとも路頭に迷うことは間違いない。

見返りに何を求めているのか、それを聞くのが怖い。ヨゴレ1は渋い顔をして帰宅した。

「このスープは美味くない」

ヨゴレ1はテーブルをひっくり返して、妻を殴った。

彼は、ゴマすり1つで低カーストから這い上がった、ヨゴレだ。彼にとって、上の奴は上で下の奴は下だった。上には媚び、下には辛く当たった。

それを処世術と心得た。

ヨゴレ1はヨゴレ2に電話し、政治家に見返りについて、それとなく聞き出すべきかどうか聞いた。

「自分で考えろよ、鳥頭が」
「アイツは黙ってるやつが好きで、欲しいものがあったら自分から言い出す奴か。それとも、察しの悪い、頭の血の巡りの悪い奴を嫌う奴か」

「お前が何かネタを提供したら、教えてやろう」

同類は同類を呼んだ。ヨゴレ1は舌打ちした。全く、イラ立ちが募る生き方だ。

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