隠居生活

読書メモです。真面目に書き始めたのは2026年からです。最新の投稿は書きかけです。5年以上前の過去記事は、自分用のメモにつかっています。

建設ビジネス

建設ビジネス
高木健次
クロスメディア・パブリッシング(インプレス)
2025-01-24
 
日本の建築技術は、世界的に注目もされています。YOUTUBEで情報発信する人も増えています。
建築業界は好調で、若手の就労者も減っているわけではありません。老朽化したインフラの修繕もあれば、震災復興もあります。が、慢性的に人手不足です。
 
建築業界は労働時間が多く、辞める人もいます。
2024年に時間外労働を規制する法律が施行されるので、人手を集めている会社もあります。サービス業やオフィスでは派遣が流行っていますが、建築業界では、有料で人を派遣することが禁止されています。近年M&Aが増え、会社ごと人手を買おうという動きも活発です。これまでは小さな会社が乱立する傾向がありましたが、大きな会社への集約が進んでいます。
 
「労働時間は毎年短くなっていますが、週休2日も定着しているとはいえません。民間工事と公共工事で比較すると、公共工事のほうが休みの面では改善傾向にあります。他方で公的機関に寄せられる労働相談件数を産業別に見るとサービス業、福祉関係が多く、建設業は多くはありません。「手に職」の業界なので「会社で嫌なことがあったらすぐ他社に行けるから」と考えられます」(201ページ)
 
最近は現場をドローンで撮影し、データ化していることがあります。今まで職人技に頼っていたものが、データが共有できるようになっています。
 
かつては公共工事に多くの企業が入札し、談合になることもありました。最近は入札を請け負っても採算が立たないので、どこも入札しないということもあります。テクノロジーを積極的に導入して、安く作れるようにすることも求められます。
 
災害復興が遅れる原因の1つに、技術系職員が不足していることも挙げられます。
国の管轄する現場では新工法も取り入れられますが、市町村にはそういう技術の是非を判断できる人材が不足していることもあります。
かつて公務員叩きが横行し、採用が控えられたことがあり、役所に氷河期世代の人材は少なめです。
 
鋳型で作っていたものを3Dプリンターで作ることもあります。災害復旧でもドローンで現場を調査し、3Dデータを生成して現場に送れば復旧に貢献します。
 
 
公共工事や非住宅のほうが、資材や人件費が上がれば、価格に反映できるように交渉できます。
住宅の施工主には値上げの提案が難しいので、やりにくいと感じる工務店も増えています。住宅施行を請け負う大工の確保も難しくなっています。
 
工業高校卒業生は就活市場で引く手あまたです。3倍の求人が殺到し、文系の大学卒業生のほうが就職先がない傾向があります。建設会社でも、高倍率の工業高校で人を募集するのは諦め、普通科で集めている会社もあります。
 
職人は日給制のことが多いです。雨の日には現場が休みになり、給料が減ります。
「この日給制は若手に大変評判が悪く、国交省の調査では建築会社の若手の離職理由のトップがこの日給制です。ちなみに2位が移動の多さ、3位が休みの取りにくさで給料への不満が実は4位です。繁忙期にたくさん出勤すると稼げるので、日給制のほうが良い、という年配の職人も多く、「日給制問題」は世代間ギャップが大きいです」(195ページ)
 
日本史では、奈良時代から、首都の人口が増え、下水処理が追いつかなくなり、首都を移転することがよくありました。
江戸は元々、沼地でした。人が住める地盤にし、河川の氾濫を鎮めるために、徳川家康が大きな公共工事を行ない、のちの東京の基盤になりました。
 
 

トランプがローリングストーンズでやってきた

トランプがローリングストーンズでやってきた 言霊USA2016
町山 智浩
文藝春秋
2016-05-25
 
2016年にトランプが一期目の大統領になった頃の記事です。アメリカの社会や芸能ニュースが知りたかったので、読みました。大統領選では、SNSで候補の妻を腐したり、リトルと言われた対立候補がトランプは手が小さいのだからアソコも小さいのだろうと反撃するなど、下世話な選挙戦が繰り広げられました。このシリーズは、いつも大統領のタイトルがついていることが多いですが、内容はいろいろな世相のことが書かれています。
 
アメリカのスターバックスで、#Race Together というタグの書かれたコーヒーが出された時期があります。人種差別が問題になっているのを受けて、CEOのハワード・シュルツが呼びかけたものです。チラシには店員と話すことが進められていて、
「他の人種の友達は何人いますか?」「近所には違う人種の人が何人いますか?」「違う人種の人と食事したことは何回ありますか?」「違う人種の人を自宅に入れたことは何回?」(37ページ)
と書かれており、胡散臭いとしてネットで炎上しました。
「レイシスト認定テストか!」「高いコーヒー飲んでリベラルな説教されたくない!」
黒人の側も猛反発。「奴隷制度から何百年も続く民族の悲劇を茶飲み話にするな」「スタバ経営陣は白人ばかりだ。そっちを先になんとかしろ」
そもそもスタバがあるのは裕福な白人が住む場所だけ。貧しい黒人やメキシコ人が多く住む地域には一軒もない。彼らの一日の食費は、なんとかマキアート一杯で吹っ飛ぶから」(38ページ)
 
サイエントロジーは、トムクルーズやジョントラボルタで有名な新興宗教です。
昔のトラウマを話して解放するオーディティングというのをしていて、精神医学業界から懸念を示されています。気に入らないことをすると、便所掃除をさせられたり、睡眠時間を奪われて湿った布団で眠らされたりといった懲罰があるようです。
 
南アフリカの貧しい白人の間にZEFという文化があります。派手な古着を着たり、ズールー族の民族衣装を着たり、ヒップホップみたいなゴールドチェーンを下げたり、真っ黒なコンタクトレンズをつけたりしています。「第9地区」の監督が撮った映画「チャッピー」は彼らをフィーチャーしています。治安の悪い南アフリカの警察はロボットを積極的に登用していて、そのうちの一体を盗んで彼らが教育する話です。
 

洋書ベスト500

新・ジャンル別  洋書ベスト500プラス
渡辺由佳里
コスモピア
2022-09-24
 
次に読む洋書を選ぶのに使おうと思いました。あらすじと、難易度が1から10までついているのが便利です。最終章の児童書以外のパートでは、難易度6から10しか載っていません。6は向こうの中高生が読むレベル、7が大人が気晴らしで読むレベル、8以降はネイティブでも難しいレベルになっています。
自分は洋書のレベル7くらいの本を読んでいることがわかりました。レベル8以上はまだ難しいので、日本語訳が出ていたらそちらを読むほうが良さそうです。
日本語の本なら図書館に揃っています。日本語の本でも、あまり集中力がないときに読む本と、冴えている時に読む本を分ています。日本語で7以下の難易度なら、集中力がないときに読む用にできます。
洋書はキンドルで購入できますが、検索すると、1000円以下で買えるものと、2000円以上するものがありました。
私は洋書を探すときに、読みやすくて失敗しないものを選ぼうと思って、いつもMichael ConnellyかJohn Grishamになっていました。他にもお気に入りの作家が見つかるといいと思っています。
一度に予約リストに入れたり、アマゾンで検索するのは大変なので、しばらくしたらまた借りて、探そうと思います。
 
 
 
 
 
 

紙の民

紙の民
サルバドール プラセンシア
白水社
2011-07-26
 
そんなに分かりやすい小説ではありません。
文体は易しくて読めるのですが、序盤は何が書いてあるのかがわからなくなりがちでした。
巻末に訳者解説があり、マジックリアリズムという、ありえなそうなことを現実のように書いていく手法みたいです。
例えば、冒頭に出てくるアントニオは紙から生き物を作ることができます。メルセド・デ・パペルは、その最後の生き残りでした。メルセド・デ・パペルは多くの男とつきあい、セックスをすると紙の切れ端で彼らを傷つけました。
 
フェデリコ・デ・ラ・フェは土星に見張られていると思うようになり、周囲の人に戦争を呼びかけます。
フェデリコ・デ・ラ・フェは寝小便をするせいか、妻に出て行かれて娘と一緒に花の街にたどり着いた男です。そういう事情を他人から覗かれるのは嫌だと思いました。
 
「でもさ、土星の何が悪いんだ?」と俺はフロッギーに訊いた。
「ずっと見下ろされていて、どこに行くにもついて来られたいか?」
俺はこう言いたかった。「俺は別に気にしないよ。誰かが俺たちを見てなきゃだめだろ。空を見上げてさ、何もないんだなんて思いたくないよ。何かが俺のことを見てくれてるって思っていたいんだ」
でも、俺は何も言わなかった」(99ページ)
 
最初はフェデリコ・デ・ラ・フェの妄想かもしれないと思うのですが、途中から土星と呼ばれている作者(サルバドール・プラセンシア)が出てきて、彼の被害妄想は現実になります。
土星は最近、失恋していました。同じように失恋したフェデリコ・デ・ラ・フェが気になるのかもしれません。
 
フェデリコ・デ・ラ・フェの娘のリトル・メルセドは、ベビーノストラダムスという超能力者の赤ちゃんを知っていました。リトル・メルセドはベビーノストラダムスから教わり、文章に黒塗りを作り、土星から読めなくすることができるようになります。
リトル・メルセドは、父が妻が出ていった悲しみを癒すために、自傷していることを知りました。彼が悲しみを商品化されたくないのは当然だと思いました。
 
「ベビー・ノストラダムスは『紙の民』の結末を知っていた。簡素な十七文字の、「悲しみに続編など存在しないのである」という文で締めくくられるのである。彼は登場人物すべての行く末も知っていて、彼の視野はこの本を超えて広がっていた。(中略)
そうそうと情報を明かして小説全体を妨害することで、土星を無効にできる力をベビー・ノストラダムスは備えていた。登場人物たちの行く末を列挙するだけで、すべてはここで終わる。戦争に勝つのはどちらであるのか、メルセドはフェデリコ・デ・ラ・フェの元に戻るのか、放浪のリズは最終的に土星の元に帰ることになるのか、明らかにすることで」(191ページ)
 
ここに出てくる男性の登場人物は、枢機卿から、街のギャングまで、昔別れた女性に釈然としない思いを持っている人が多いです。かといってその悲しみは、しっかり書かれるわけではなく、どの人物もそういった悲しみと共に生きているような空気が漂っているだけです。
 
彼らの住む街はカーネーションとバラの産地で、労働者は棘で手を切ったりするのですが、花の香りや水やりの水滴が気持ちがよさそうです。メキシコ出身の?リタ・ヘイワーズという女優がでてきますが、彼女はスモモを育てるのが上手でした。レタス農家の労働者とつきあっていたことがあり、彼と別れてハリウッドへ行くと、彼は貰ったラブレターを他のレタス労働者に見せてしまいます。彼らは映画館で彼女はレタスを投げつけたりしていました。
 
 

第七問

第七問
リチャード・フラナガン
白水社
2025-09-19
 
主人公はタスマニア出身です。主人公の父は戦中に日本で捕虜にされていて、原子爆弾が投下され戦争が終結します。一方で、原子爆弾の着想に関わった、HGウェルズやシラードの話も挟まれます。主人公は父の記憶を辿り、強制収容所のあった日本の田舎へ行きますが、捕虜のことは当事者以外にはあまり知られていないようです。軍人は残酷でしたが、人々は概して善良で、食糧難の中で、捕虜に食料を分けていた村民もいました。跡地の訪問にマスコミを呼ばれ、帰りにキャバクラで接待を受けます。
 
チューホフは子供の算数の教材に出てくる文章をパロディに使い、その中の第七問はこういうものでした。
「一八八一年六月十七日水曜日、ある列車が、A駅を午後三時に出発してB駅に午後十一時に到着する予定でしたが、出発直前になって、午後七時までにB駅に到着せよとの指示がありました。より長く愛するのはだれでしょう。男でしょうか、それとも女でしょうか」
だれ?
あなたか、わたしか、広島の住民か、奴隷労働者か。そしてわたしたちは互いに対してそのようなことを為すのだろうか。
それが第七問である」(28ページ)
これがタイトルの由来のようです。
 
小説家で社会思想家のHGウェルズは、妻の他に多くの愛人とつきあっていました。レベッカ・ウエストは火のような情熱を持っていて彼を魅了しますが、のちに疎遠になります。ウェルズは多くの愛人と過ごしました。
 
ウェルズに影響を受けたシラードは、原子爆弾のアイデアを思い付きます。科学では国際的に論文を共有しますが、原子爆弾の技術をナチスに渡さないように働きかけていました。
シラードを教えていたアインシュタインがルーズベルトに進言し、原子爆弾が完成して広島に落とされることになりました。
このような連鎖の1つでも欠けていれば、広島と長崎に原爆が落ちなかった可能性もあります。よくいわれる原爆投下の理由に被害を最小限に抑える目論見というのがあり、狂信的な政治状況に陥っていた日本と通常の本土決戦になれば、被害者数は跳ね上がったという想定があります。しかし日本の上級役人に原子爆弾の実験を見せて、戦意を挫くという案もあったようです。
シラードは後年、科学者に飼われているイルカたちが知性と影響力を持ち、核開発に傾いた世界を立て直すという小説を書いたことがあります。
 
 
「だが、ソディの著作は、地球はエントロピーに背負わされた運命を、原始には無限のエネルギーが内在するという保障によって克服できることを明らかにした。ソディが驚くべき発見について語った言葉を、ウェルズは最も成功した自作の小説の要約と見なしただろうーー「われわれはもはや、ゆっくりと死にゆく世界の死にゆく住人にすぎないのではない」。
数十年後ウェルズは、彼の「親愛なる古き友『タイムマシン』」の新版の序文でこう述べた。「当時の地質学者や天文学者は、この先地球が『凍りつく』のは避けられず、人類及びあらゆる生物も同様の事態となるというとんでもない嘘を吹聴していた。逃れる術はないように思われた」が、科学的な新発見により、「人類はこの先なんでもできるしどこへも行ける」ことになった」(79ページ)
 
オーストラリアはイギリスが囚人を島流しにする場所でした。主人公は囚人とアボリジニの混血です。そういう人の多くが、先祖のことはあまり話さないようにしていました。
イギリス人は宇宙戦争に出てくる火星人のように、タスマニアを侵略しました。
 
主人公は21歳でカヌーで川下りをしていて死にかけたことがあります。急流で折れたカヌーに体が挟まり、激流の中でこう着状態になりました。途中で意識は幽体離脱し、ほぼ死ぬと思いました。
 
タスマニアで育った主人公の、父や母の記憶が書かれています。生活に苦労した父と母が高齢まで生き、死ぬところも書かれています。全体的に、死の影は濃厚です。タスマニアの美しい自然も描かれていますが、それは滅びつつあるとも書かれています。
 
エノラゲイに搭乗して広島の上空に原爆を落としたトーマス・フィアビーは多くの子孫を残し、2000年に死去しました。墜落したら、機密保持のために、薬を飲んで自殺するように言われていました。
 
 
 

ペルセポリスⅠ

ペルセポリスI イランの少女マルジ
マルジャン・サトラピ
バジリコ
2005-06-13
 
イランは多くの文明の境目にあり、多くの勢力に侵略されてきた歴史があるようです。
イスラム革命のあとイランイラク戦争が勃発し、多くの市民が海外に逃れました。
ペルセポリスの作者も、オーストリアに留学し、フランスでアートを学ぶことになります。
1巻ではイラン時代のことが書かれています。
主人公のマルジは著者の子ども時代です。
子供の頃は預言者になると思っていて、寝る前によく神と対話していました。
学校で預言者になるといって親を呼び出されたこともあります。
シャー(皇帝)の悪政が問題になっていて、デモをする人をよく見ました。
両親にデモに行きたいといったり、友達とデモごっこをしたりしました。
群像劇や髪の姿が面白く書かれています。
優れた漫画表現だと思います。
マルジの家は裕福でお手伝いさんがいて、別々に食事をするのをやましく思っていました。
マルクスについての漫画を持っていました。
革命が成功すると、イランイラク戦争が始まるなど、情勢は悪くなりました。
海外から輸入されたロックやポップスも禁止されるようになります。
スカーフをしっかりかぶって外出しないと投獄されるリスクがあります。
人々は家で好きな格好をしてパーティーをしていました。
マルジの家はリベラルで、家族と政治について話したり、自由に考える時間はたくさんあったようです。
亡命したり、投獄されて亡くなった親戚もいます。
 
 
 

言語化するための小説思考

言語化するための小説思考
小川哲
講談社
2025-10-22
 
小説を書いたり読んだりするときに、どういうことを意識したらいいかが書かれています。小説は文章テクニックの塊です。一見しただけでは判別できないテクニックもたくさん用いられています。文章を書くのにも参考になりそうです。細部よりも、全体的なことが書かれています。
 
小説を読む時の感覚は人によって違います。共感できない登場人物がいることを面白くないと思う人もいれば、キャラクターが薄いことに不満を感じる人もいます。著者はそれを人によって小説法が違うと表現しています。純文学では陳腐な表現やご都合主義の展開は嫌われます。エンタメの読者は起承転結がなっていない話を嫌います。マイナーだけど好きな小説、評価されているけど面白いと思えない小説があったりするのは、そういうわけです。
 
誰かが桃太郎のような話を思いついたとき、どう書けば面白くなるかを考えます。
桃太郎は桃から生まれるというのが他の小説にはない要素です。それを冒頭に持ってくれば、読者の関心が惹きつけられます。
もう1つには、鬼が成敗される理由を書くことです。鬼が残虐に振る舞っているシーンを書くことで、桃太郎が最後に鬼を退治すると必然性とカタルシスが生まれます。
「平安時代の刀工、三条宗近が鋼を鍛えているシーン」から始めるというアイデアもあります。桃を切るときに使われ、鬼を退治するときに使われるので、象徴になります。
 
「そこに何かのメタファーを重ね合わせることで、作品の中から読者が抱える問題意識を汲みとってもらう、という戦略を検討する。「桃」は閉鎖環境のメタファーで、「桃から生まれた子ども」はコロナによって青春を閉鎖環境で過ごすことを余儀なくされたZ世代のメタファーだ。そうなると必然的に「鬼」はZ世代を抑圧するものの象徴ーー古い価値観を持った大人たちのメタファーだ。
「新しい読み味」のもう一つのアイデアは、主人公である「桃から生まれた子ども」の一人称視点で物語を書く、というものだ。まだ世に生まれていない子どもが成熟して鬼を倒すまでを、一人の人間が言語と知能を獲得していく過程として描くチャレンジだ」(29ページ)
 
文章を書くときは、起きたこと、考えたこと、五感で感じたことを、一直線に並べないといけません。情報をどういう順番で並べるかが文体ともいえます。できごとや考えたことが、主人公の主観に沿って順番に描かれているものもあれば、回想形式で人に説明をするときのように書かれていることもあります。謎が解ける鍵をあとから言うようにして、謎解きを楽しむものもあります。
 
20世紀を生きたカミュはペスト禍を経験したわけではありませんが、戦争体験者でした。戦争体験とペストの被害には似たところがあると想定し、リアルな小説を書くことができました。
 
よく伏線回収が上手いとかいいますが、小説の全ての文章は伏線といえるそうです。
「山積みになった本の間に、早川書房から届いた支払い調書が挟まっていて、「ああ、ファイルに閉じないといけないなあ」と思っているーーという文章が小説になるためには、僕の机の上に飲みかけの水があったことや、山積みの本があったこと、狐の影絵の形に塗装が剥げていたことなどが、文章が一義的に表現すること以上の意味を持つ必要がある。(中略)たとえば語り手の「僕」がガザツな性格であることや、早川書房と取引する立場の職業(作家やライターや翻訳者やイラストレーター)であることなどを暗示していなければならない。つまり、任意の文章が伏線として機能していなければ、その文章は小説にならないのだ」(85ページ)
 
会話を聞くのは、音声でもできます。小説だと、誰が何を言ったのかを書かないといけませんが、それが説明になっているだけの文章は余分です。
「昨日、電車に乗ったら変な人がいてさ」颯真が唐突に話しはじめた。偉そうに腕を組んでいる。
眠そうにしていた湊斗が「どんな人?」と呑気な声を出す」(153ページ)
と言うふうに、人物描写を兼ねるなどの、何らかの役割をしている必要があります。
 
小説ゾンビになると、自分が面白くないと思うことでも、人々が何を求めているのか考えるようになります。著者は恋愛リアリティ番組が嫌いですが、番組中にゲストがもらい泣きをしたり、「これは男が悪いよね」とか言うリアクションを映すのは、どういうふうに番組を見たらいいのかわからない人が多いのではないかと推測します。人に方向を示して欲しいという人が多い可能性があります。