隠居生活

読書メモです。最新の投稿は書きかけです。5年以上前の過去記事は、自分用のメモにつかっています。

ものすごくうるさくて、ありえないほど近い

ものすごくうるさくて、ありえないほど近い

ジョナサン・サフラン・フォア
NHK出版
2011-07-26
 
オスカーは911で父親を亡くしています。
父は現場から4回電話をかけてきていました。
ある日、オスカーは父親のクローゼットでブラックと書かれた封筒の中に鍵を見つけます。その理由を知りたいと思い、ニューヨーク中のブラックという人を訪ねて回ることになりました。オスカーの頭の中では、いろいろなことが起きていて、ついていくのが大変です。
 
「だったら、死んだ人用の超高層ビルを下に向かって建てるのはどうだろう?生きている人用建てた超高層ビルの下側につくればいい。そしたら地下100階に人を埋めることができて、まるっきり死んだ世界が生きた世界の下にできる。ときどき考えるのだけど、エレベーターが止まったままで、超高層ビルが上がったり下がったりしたらヘンじゃないかな。それで九五階に行きたかったら、95のボタンをおすと九五階がこっちにやってくる。それにこれはものすごく便利で、九五階にいるとき飛行機が下の階にぶつかっても、ビルが地上に連れていってくれるから、その日は鳥のえさシャツを家に忘れてきたとしたって、みんな安全だ」(12ページ)
 
父方の祖父母はドイツからの移民でした。
オスカーの祖母はオスカーに手紙を書いていて、それが挟まれています。
祖父はドイツで恋愛をして、その女性が忘れられないでいましたが、祖母が求婚しました。
祖父と祖母は、あまり触れあわないで暮らしていました。家の中は「あり」の空間と、「なし」の空間に分けてあって、「なし」の空間に入れば、相手がいないかのように振る舞うことになっていました。子供は作らないことにしていたので、祖父は祖母の妊娠が分かったあと、家を出ていきました。
 
オスカーの祖父は未来の赤ん坊であったオスカーの父に手紙を書いていて、それも挟まれています。
祖父はアメリカにきてから話せなくなり、筆談をしていました。
「ロールパンをふたつ欲しい
それとぜひ甘いものをいただければ
すまない、これより細かい持ち合わせがなくて
さあ、新しいうわさを広めよう・・・
レギュラーで頼む
ありがとう、でもいまははちきれそうで
よくわからないが、もう遅い
助けてくれ
ハハハ!
一日が終わる前に白紙のページが尽きることは珍しくなかったので、通りやパン屋やバスの停留所で人に伝えたいことがある場合は、その日の本をぱらぱらめくっていちばん合ったページを見つけて再利用するのが精いっぱいだった、「ご機嫌いかが?」と訊かれたりしたら、私の最善の返事は「レギュラーで頼む」か、「それとぜひ甘いものをいただければ」を指差すことになったかもしれない、唯一の友人、ミスター・リクターから「また彫刻をつくってみたらどうだろう?最悪、それでどうなるわけでもあるまい?」と提案されたときは、記入ずみの本のなかばまでめくって、「よくわからないが、もう遅い」(33ページ)
 
 
 

HHhH

HHhH プラハ、1942年 (創元文芸文庫)
ローラン・ビネ
東京創元社
2023-04-28
ナチス占領末期の1942年、チェコでハイドリッヒというナチス高官が暗殺されます。
戦後ではなく、ナチスの全盛期に、ナチスのメンバーを暗殺するのに成功した珍しい例でした。イギリスに亡命していたチェコ政府が送ったパラシュート部隊でした。
前半はハイドリッヒについて書かれています。
タイトルはHimmlers Hirn Heist Heydrich (ヒムラーの頭脳はハイドリッヒと呼ばれる)の略語のようです。
ただの再現ではなく、作者がこの小説を作った過程が挟まれています。
 

all the colours of the dark

All the Colours of the Dark: The Instant Sunday Times Bestseller – ‘a wonderful book’ (Richard Osman) (English Edition)
Whitaker, Chris
Orion
2024-06-25
 
パッチは片目しか見えない子供で、海賊の本を読んでから、アイパッチをするようになりました。彼とセイントは親友で、セイントは彼が好きでした。
パッチはある日、通りがかりに変質者に襲われそうになった少女を助けます。しかし彼自身は変質者に連れ去られて、幽閉されていました。
幽閉先では、グレイスという少女に助けられて生きていました。
多くの誘拐された少女が殺されていく中で、グレイスは生き残っていていました。
パッチの行方を気にかけるセイントは学校の写真屋が怪しいと思い、写真を撮って欲しいと言って家を訪ねていきます。
パッチは救出されますが、グレイスは失踪したままでした。
パッチはグレイスが気に掛かり、似顔絵を描いて人々に尋ねていきました。
パッチは絵描きの才能があり、サミュエルという画商が面倒を見るようになります。
ミスティは裕福な美少女でしたが、一種の気まぐれで自分の命を救ったパッチを恋人にするようになりました。
セイントはパッチがグレイスを探すのを手伝いました。
セイントは祖母の勧めでジミーとつきあうようになり、長じて警官になりました。
セイントは、パッチがグレイスを探すのは、生き残った人の罪悪感がそうさせているのではないかと思っていました。
 
 

アメリカ大陸のナチ文学

アメリカ大陸のナチ文学 (ボラーニョ・コレクション)
ロベルト・ボラーニョ
白水社
2015-06-04
 
南米で、ナチスに関係していたり、ナチスを称揚していた文学者、詩人の事典になっています。
全ての人物が架空です。ということは、実際は南米にナチのシンパの文学者はいないのだろうか。架空ですが、「第四帝国社」とか「鉄の心」というような出版社があるのは笑ってしまいます。
 
解説にも書いてありますが、南米はヨーロッパ文化の影響を受けています。ナチスドイツが第二次世界大戦で敗北したあとは、ナチスのメンバーは人道に対する罪で国際裁判にかけられますが、一部の党員が南米に逃亡して潜伏していたことで有名です。
こういう事典が日本人の例えで書かれていたら、「いるかも」「なるほど」と思えるかもしれません。しかし南米の知的流行に詳しくないので、ピンとこなくて、読書メモもぼけたものになりがちです。ナチスに惹かれる人には何か共通点があるのかと思いますが、必ずしも、そうでもなさそうです。誰もがナチスの誘惑からは逃れられないのだろうか。
 
冒頭に載っているアルゼンチンの詩人は、反動的な詩を書いて国内で論争を起こしたあと、ヨーロッパに渡ってヒトラーに会い、赤ん坊を抱いてもらったというエピソードがあります。その子供も詩人ですが、ヒトラーに抱っこしてもらったことを大切な思い出にしています。
はたまた、あるコロンビアの文学者は、ヨーロッパに渡って社交界で生きていましたが、アカの恐怖と戦うという名目で、スペインの反共戦線に参加します。
 
あるブラジルの文学者は、ヨーロッパの哲学者に反駁する書簡をいくつも発表して、カトリック界に歓迎されます。
あるキューバの文学者は、段落の最初の文字を並べると「アドルフ・ヒトラー万歳」「この小国のクソったれ」などとなるような小説を書き、扇情の罪で投獄されたりします。
 
「スペイン内戦は真実の瞬間である。フェルナンデス=ゴメスは熱狂し、果敢に身を投じるが、いつも傍にいるスビエタが重荷であると直ちに気づき、未来の読者にもそう伝えている。一九三六年のマドリードを再現した箇所では、スビエタとともに、赤の恐怖から身を隠している友人たちを探して亡霊たちの間を亡霊のごとく歩き回ったことや、ラテンアメリカ諸国の大使館を訪ね、覇気のない職員の対応を受けるが、情報はほとんど何も得られなかったことが、心を動かす迫真の筆致で綴られている。フェルナンデス=ゴメスはすぐにその異常な事態に適応する。軍隊生活、前線の過酷さ、行進と背面行進が、彼の精神状態、気力を損なうことはない」(49ページ)
 
最初は、ナチスドイツ亡き後に出てくるナチスというのが、どういうものなの知りませでした。「ナチスって、なんかヤバイ」で終わっていいのかが、不明でした。
南米は人種の坩堝で、白人がいます。ナチスドイツはアーリア人を至高の民族としていて、ユダヤ人やロマを差別していましたが、現在のナチスもそういう傾向があるのだろうか。南米諸国で極右が政権をとると、白人が優遇されるのか。アメリカでは黒人ラッパーのカニエ・ウエストがナチスのシンパみたいな言動をして物議を醸していました。
 
この本に載っている多くの事例を読んでいると、どういう芸術活動がナチスと呼ばれるのかが、何となくわかるようになってきました。スペイン統治時代に戻るべきだという人もいれば、アートとして強制収容所を制作する人もいます。以下のように、役満の意見を持っている人もいますが、例外的です。大抵の人は、普通の芸術活動の中に、わずかにナチスの要素が混じっています。
 
「彼が若い頃に提言したことのなかには、異端尋問の復活、公開体刑、相手がチリ人であろうがパラグアイ人やボリビア人であろうが、一種の国民的スポーツとして絶え間なく戦争を行うこと、一夫多婦性、アルゼンチン人の血のさらなる汚染を防ぐためのインディオの殲滅、ユダヤ系市民の権利の縮小、スペイン人と先住民が長年にわたり見境なく交わったあげく黒ずんでしまった国民の肌を徐々に白くするための、北欧諸国からの大量の移民受け入れ、作家に対する終身助成金、芸術家に対する課税の免除、南米最強の空軍の創設、南極大陸の植民地化、パタゴニアにおける新たな都市の建設などがある。
彼はサッカー選手であり、未来派の詩人だった」(57ページ)
 
南米の文学史はとくにヨーロッパの影響を受けてきたと思いますが、白人文明ともいえます。よってそういう発想には意外と近いものがあるのだろうか。トランプの側近だったスティーブ・バノンは「西洋文明を移民の影響から守らなくてはいけない」という思想を持っていたそうです。
 
ほとのどの作家の項目が事典形式ですが、最後のラミレス=ホフマンの項目だけは、「僕」(ボラーニョ)が書いています。「僕」が刑務所に入っていたとき、ラミレス=ホフマンは戦闘機に乗って、空に文字を書くという芸術をやりました。後年、ホフマンは違法なポルノの撮影をし、俳優や監督を殺し、逃げていました。ロメロという刑事はホフマンを追っていて、それらしき人物を見つけ、「僕」は、ロメロから、人相を確認してほしいと言われます。
 
 
 
 
 
 

視点という教養

視点という教養(リベラルアーツ) 世界の見方が変わる7つの対話
野村高文
イースト・プレス
2022-06-18
現代はこうでなければいけないという決まりは少なくなっています。その分、自分が何が好きで、何をしたいのかがわかっていないと、生きづらくなります。自分と社会との関係も、どのようにしたらいいのか、迷いがちです。リベラルアートは指針になります。
「1つの視点からだけでなく、あらゆる視点から社会と自分の人生を見ることで、ものごとには多面性があることを認識できるからです。
たくさんの視点を獲得すると、時代の激しい変化にも翻弄されづらくなり、自分に向けられるポジティブな反応にも、ネガティブな反応にも振り回されなくなります。それをつかさどるのが教養なんです」(11ページ)
 
今まで世界史の中では、鉄器が使われるようになって農業効率が上がると、有閑階級が出てきて哲学や思想について世界中で考える人が出てきた、というように、ときどきに時代の変化があります。その変化は年々早くなっています。
 
 
2、物理学
「たとえば、自分の体も原子で構成されてるじゃないですか。原子ってスカスカだと思うんですけど、原子が集まってできた体を触ることはできますよね。
「じゃあ触るってどういうことだ?」という問いが浮かんできて、それは哲学にもつながってきます。近世だと、物理学者や数学者が兼ねることもありましたし」(30ページ)
 
社会学は、社会の変動により曖昧なところがあります。物理学は多くが数字で計算でき、物理学の精度はほぼ狂いがありません。
社会科学も、なるべく多くの方向から物事を見ようとしていますが、物理学でも、1つの真実に対して5つくらいの導出の方法があるそうです。優れた物理学者はそうした方法を知っています。
 
3、文化人類学
文化人類学は、世界中の文化を研究し、西洋中心の学問の世界を相対化する効果があります。文化人類学の研究では2年ほど、対象とする部族と生活を共するのが定石になっています。フィールドワークは体力が必要です。バックパッカーみたいに、沈没する人もいます。つまり、研究室に帰るのをやめて、その部族と暮らしていくことを選ぶ人もたまにいます。