隠居生活

読書メモです。最新の投稿は書きかけです。5年以上前の過去記事は、自分用のメモにつかっています。

ニックス

ニックス
ネイサン ヒル
早川書房
2019-02-20
 
サミュエル・アンダーセン・アンダーソンの母親、フェイ・アンダーセン・アンダーソンは小さい頃に家族を置いて出ていきました。
大きくなったサミュエルは、大学で文学入門のクラスを教えています。大学のパソコンでオンラインゲームをしています。担当学生のローラは休みがちで、レポートの盗用をして、クラスを落としそうです。サミュエルがそれを指摘すると、ローラは目の前で泣き出しました。
 
「ここで生じる問題は、サミュエルは誰かが泣いているのをみると、自分も泣かざるを得なくなるということだ。思い出せる限りの昔から、ずっとそうだった。それは育児室の赤ん坊がほかの赤ん坊の同情を引こうとして泣くのに似ていた。しかし、泣くというのは他人の前での行動としてはあまりにもむきだして隙だらけなものだ。泣いている人間を見ると、恥ずかしく、困ったモノだと思ってしまう。それは自分自身の恥や当惑の感情を掘り起こす」(53ページ)
 
フェイはワイオミング州の共和党の知事に投石をして、逮捕されます。現場はスマホで中継され、全国ニュースになりました。サミュエルが母の消息を知ったのは、それが初めてでした。
サミュエルはずっとオンラインゲームをしていて、そのニュースには全く気がつきませんでした。
サミュエルの元に、まず弁護士から電話がかかってきて、彼は裁判でフェイが悪い人ではない証拠を集めているので協力して欲しいと言われました。
出版社のペリウィンクルから連絡がきて、数年前の本を出版するという契約が、延びていて履行されないようなので、訴えることになるだろうと言われました。違約金を払わなくてはいけなくなります。サミュエルは窮地に陥り、今、話題になっているフェイのことを書けば売れるのではないかと持ちかけます。
 
「違うって、どう違うんですか?」
「第一に、きみはもう有名ではないということだね。鉄は熱いうちに打つ必要があった。ところが、君の鉄はすっかり冷えきっている。しかも、この国はどんどん変わっているからね。子ども時代の恋についての、きみの古風な話は、9・11前にはふさわしかった。しかし、今はどうだ?今の時代には少しおとなしすぎるし、少しマッチしていない。それにーー気を悪くしないでくれる?ーーきみにはすごくおもしろいっていうところがないんだよね」
「それはどうも」
「誤解しないでほしいんだけどね。わたしがずっと特段の興味を持っていられるのは一百万人に一人っていう人間だけだからね」(75ページ)
 
サミュエルは子供の頃に、ビショップという野生的な少年と友達になりました。
妹のベサニーはバイオリンの名手で、初めて見たときからサミュエルに強烈な印象を残し、サミュエルはずっとベサニーに恋をしていました。サミュエルはベサニーと文通友達になり、作家になってベサニーの気を引こうと思いました。ベストセラーになれば、母が戻ってくるのではないかとも思っていました。
 
サミュエルの学校では、悪いことをすると校長室に呼ばれ、尻を木の棒で打たれますが、ビショップは校長に、俺の尻に触りたいんだろう?などと言い、尻打ちを回避して戻ってきたことがあります。体の大きないじめっ子をいいポルノがあると誘い出し、ゲイポルノを見せて脅したこともあります。学校を卒業してからサミュエルは、ビショップが虐待されていたのではないかと思いあたり、気が咎めるようになりました。
 
フェイはシカゴの大学へ進学していました、途中で故郷に戻ってきて、高校時代のボーイフレンドと結婚してサミュエルが生まれています。
シカゴ時代、フェイには売春での逮捕歴がありました。その内実は謎で、知事に投石したテロリストたるフェイの本を書くなら、そのことを知る必要があるとサミュエルは考えていました。
フェイが大学に進学した頃は、学生運動が真っ盛りでした。フェイと学生寮で同室のアリスという女子学生は、進歩的な学生で、学生運動に参加する一方で、抗議運動を取り締まるブラウンという警官をナンパしてカーセックスをしていました。ブラウンはアリスに入れ込んでしまい、アリスが別れを告げたときに内心、取り乱しました。アリスは同室の女の子に興味があるといって去っていったので、ブラウンはフェイを逮捕してアリスとよりを戻そうと思いました。
 
「二交代制、三交代制で疲れていらだっていた警察は、つまらない脅しをまともに受けとっていたのだ。市の飲料水にLSDをぶちまけてシカゴをトリップさせるというヒッピー連中の脅しを。そんなことをするには五トンものLSDが必要だというのに、市の上水道のポンプ場のすべてに警官が配備された。警察はすでに爆弾探知犬を連れてコンラッドヒルトンをパトロールしていた。副大統領や代議員が宿泊しているそのホテルを爆破するとヒッピーが脅していたからだ。ヒッピーが空港でお抱え運転手に化ける計画を立てているという噂もあった。代議員の夫人を誘拐し、ドラッグで酔わせて、不倫関係を結ぼうというのだ」(512ページ)