隠居生活

読書メモです。真面目に書き始めたのは2026年からです。最新の投稿は書きかけです。5年以上前の過去記事は、自分用のメモにつかっています。

ヴァイパーズ・ドリーム

ヴァイパーズ・ドリーム (扶桑社BOOKSミステリー)
ジェイク・ラマー
扶桑社
2024-11-02
 
ヴァイパーはアラバマ州の田舎町からニューヨークのハーレムに出て来て、ミュージシャンになろうと思っていました。
ジャズクラブを訪ね、トランペットを吹くと、ひどいもんだと却下されます。
しかしジャズクラブのマスターはマリファナをわけてくれて、理容室の掃除の仕事を斡旋してくれました。裏家業もするユダヤ人のビジネスマンと知り合い、付き人をするようになります。
彼に勧められて、マリファナの売人をするようになります。
マリファナの商売には、ライバルも大勢いました。
ヴァイパーは、マリファナはミュージシャンの創造力を高めるが、コカインはミュージシャンをダメにすると思っていました。その信念は、殺しにまで発展することがありました。
 
「手を振って挨拶する者さえいなかった。ウェスト・インディアン・チャーリーが喉をかき切られ、ビッグ・アルが独房で首を吊ってから1年、ヴァイパーは権謀術数家(マキアヴェリアン)の運命をたどっていた。すべての人に恐れられ、誰にも愛されない。周囲ではみなが戦争の話をしていた。照明が落とされ、”アマチュア・ナイト”が始まった。見込みのなさそうな歌手、見かけ倒しのミュージシャン、捨て身のバンドなどが次々と登場した。ヴァイパーは、アラバマ州ミーチャムから出てきたばかりの無知な田舎者だった若き日の自分を憐れむように、彼らを憐れんだ」(116ページ)
 
彼は田舎を忘れ、ハーレムを故郷だと思っています。当時のジャズシーンを担ったニューヨークの街の雰囲気を知ることができます。
 
アメリカ、とくに音楽界では、薬物に対する忌避感は薄いです。
実際に薬物中毒で死んだミュージシャンも多いです。
この小説自体は、とくに実話に基づいていないと思いますが、現実のジャズシーンと交錯します。ジャズシーンの裏に、こういう青年が1人や2人いてもおかしくないと思わせます。
 
「ヴァイパーはマイルスを尊敬していた。ヘロインの常習をなんとか断ち切り、自分のバンドを結成してからは、ともに働くミュージシャンがジャンクに依存するのを認めていなかったからだ。たとえ相手が偉大なジョン・コルトレーンでも。
「トレーンにしろ、ほかのヘロインをやっているやつらにしろ、道徳的にどうこうというのはなかった」かつてマイルスは言った。「おれだって経験したから。ただ、彼らがライブに遅刻してきて、ステージで居眠りしはじめるのは我慢ならなかった。許せなかったんだ」(173ページ)
 
ヴァイパーは冒頭で3回目の殺人を犯し、ひどく後悔しています。
捕まりたくなかったら3時間以内に国外に逃げろと、癒着していた刑事からアドバイスされています。
ヴァイパーはコカイン絡みの抗争で、2回人を殺していますが、加害の揉み消しにも成功し、ビジネスライクな成り行きで、これといった感慨はありませんでした。
 
ヴァイパーは田舎からハーレムに出て来て、20年以上が経っています。音楽の流行も変わり、ビバップが流行るようになり、ジャズバーにもロックが浸透してきます。
昔から同じ女が好きで、うまくいかなかったから心に鍵をかけて誰とでも寝るようになり、昔と変わらない生活をしています。
 
ニューヨークのジャズシーンでミュージシャンたちのパトロンをしていた、パノニカというロスチャイルド家の女男爵がいます。彼女はバーを持っていて、ミュージシャンに、いますぐに3つの願いが叶えられるなら何がいいか聞いてまわっていました。
ヴァイパーはそれに触発され、過去を振り返ることになります。
 
他のミュージシャンの願いは、白人になりたいとか、音楽の女神に好かれたいとかいうものですが、人生を振り返った彼の願いは素朴でした。